求人ゼロ円で、採用が決まりました——2年前の仕事が、面接に来た話

閉店後の店のテーブルに置かれた無地の用紙とペン、向かい合う二つの椅子

今日はね、ちょっと驚いてもらいますよ。嬉しかった話なので。

求人をかけてない状態で、人の採用が決まりました。

まだ働いてはいなくて、初出勤は、この記事を書いた翌日。でも、この経緯がね——ちょっといい話なんですよ。

来てくれたのは、あの子の妹でした

応募してくれたのは、うちで働いてくれてたスタッフの妹です。今、高校1年生。

その妹はね、たまにうちへラーメンを食べに来てくれる子だったんですよ。で、お姉ちゃんが働く姿を、客席から見てた。家では「お店の雰囲気って、どうなの?」って聞いてたらしくて。

お姉ちゃんの答えが、「雰囲気は、けっこう働きやすいよ」

それを聞いてて——「あの店で働きたい」って、来てくれたと。

ここで大事なことをひとつ。お姉ちゃんは、もう2年前に卒業してます。 今うちにはいません。つまりこれ、「姉のコネで滑り込んだ」んじゃなくて、2年前の記憶を頼りに、自分の足で来たんですよ。

面接は、厳しくやりました

で、面接。ちゃんとやりました。むしろ、厳しく。

見たのは、挨拶、返事、受け答え。ここはやっぱり厳しく見るし、「基準に満たないなら、ダメですよ」っていう話も、はっきりしました。

それから、これも先に言いました。

「お姉ちゃんがいたからって、特別扱いはしないよ」

たぶんね、これは本人も望んでることなんですよ。「姉の妹」として採られたいわけじゃない。一人の応募者として、ちゃんとジャッジされたい。だから、そうしました。

「私は、姉を超えたいです」

でね、その面接の最中です。彼女、こう言ったんですよ。

「私は、姉を超えたいです」

……俺、思わず笑いそうになって。で、こらえたんですよ。

誤解しないでほしいんですけど、この笑いは「できるもんか」の笑いじゃないんです。逆です。

「お、挑戦者が来たぞ」っていう笑いなんですよ。久々に、根性の入ったやつが来たな。骨のあるやつが来たな——っていう、嬉しさで口元がゆるむやつ。分かりますかね、この感じ。

『SLAM DUNK』の山王戦に、こういう場面があるんですよ。王者・山王の最強センター、河田が、挑んでくる桜木にフッと笑う。それを見ていた記者が言うんです——あれは「勝てるもんか」の笑いじゃない、って。

あれです。まさに、あの笑い。

で、俺が返した言葉は、これだけです。

「おう、そうか」

内心は、ニヤニヤしてましたけどね。

客席から見た、カウンター越しに働く人の後ろ姿

求人って、1人採るのに5万円かかるんですよ

ここからは、経営の話をしますね。

アルバイトの求人を普通に出すと、1人採用するのに、だいたい5万円かかるって言われてます。求人サイトの掲載料とかを全部ならすと、そのくらい。

今回、うちが払った求人費は——ゼロ円です。

じゃあ、何が求人票の代わりをしたのか。考えたら、ふたつなんですよ。

2年前にお姉ちゃんが見てた「店の空気」と、姉妹の間の「働きやすいよ」の一言

前に書きましたけど、店の評価って、知らない間に決まってるんです。僕が面接してたつもりの2年間、実は店のほうが、あの姉妹に面接されてた。——それに受かったのが、今回だったんでしょうね。

2年越しに、返ってきた

正直ね、ここがいちばん、じんときてて。

お姉ちゃんが働いてたのは、2年前ですよ。その頃、僕はただ、いつも通りやってただけで。挨拶にうるさくて、ありがとうをちょっと大げさに言って、スタッフが働きやすいようにって、それだけを一生懸命やってた。

まさか、人に一生懸命、真面目にやってたことが、2年越しに返ってくるなんて、思いもしなかった。

思い出は配当金だって前に書きましたけど、これもそうなんですよね。2年前の日々が元本で、今回の応募が配当。いい職場を作ることって、いちばん時間のかかる、いちばん強い求人活動なんですよ。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも書いておきます。

「身内の採用って、揉めませんか?」

姉妹が同じ店に並ぶなら、気を使う場面もあったと思います。でも、お姉ちゃんはもう卒業してるので、その心配はほぼないんですよね。

それに「特別扱いしない」はもう宣言済みです。基準は全員同じ。挨拶、返事、受け答え。姉の妹だろうと、そこは一切曲げません。

「お姉ちゃんは、どう思ってるんですか?」

——正直、分かりません。直接聞いたわけじゃないので。

妹がうちを選んでくれたことを、喜んでくれてたらいいなとは思いますけど、そこは想像で書かないでおきます。

「働く前から、褒めすぎじゃないですか?」

そのとおりで、実際どうかは、働いてみないと分かりません。 明日が初出勤なので。

ただ、今までの面接の経験からいうと——すごくいい人材になる、そんな感じがしてて。ここは外れたら外れたで、正直に書きます。続報、待っててください。

(追記)続報、書きました。→ 挑戦者の初日——面接で分かるのは、半分です

開店前の朝、店の入り口にのれんを掛ける手元

いちばん強い求人票は、今日の店の空気

まとめますね。

求人広告は、1人5万円。でも、いちばん強い求人票は、お金で買えないんですよ。

今日の店の空気が、2年後の応募者を連れてくる。 スタッフの働く姿が、その家族に届いてる。「働きやすいよ」の一言が、求人サイトの何十万円分も働く。

だから僕は明日も、いつも通りやるだけ。挨拶にうるさくて、ありがとうを大げさに言う、いつものやつを。

この話には、始まりがあります。妹さんが最初にお店へ来てくれた日のことは、こっちに書きました。

「求人って、してますか?」——求人費用ゼロで人が来た、リファラル採用の話

——さて。明日は、挑戦者の初出勤です。