白いご飯だけ、お客さんに出ました——新人が入ると、店の「見えない穴」が見つかる

調理台に並んだ二つの茶碗、片方には蓋がしてある

新人の子(例の挑戦者です)が入って、いいことばかり書いてきましたけど、今日はミスの話をします。

先に言っておくと、オチは「新人のせい」じゃなくて。むしろ——新人のおかげで、店の見えない穴がひとつ見つかったという話。

チャーシュー丼の、段取り

まず、うちのチャーシュー丼の段取りから。

ご飯を茶碗に盛って、蓋をして、肉が焼き上がるのを待つんですよ。肉が上がったら、蓋を開けて、乗せて、提供。——この「蓋をして待つ」が、うちでは当たり前の光景で。

ベテラン勢はみんな知ってます。蓋がしてある茶碗を見たら「ああ、肉待ちだな」って分かる。誰も教え合わない。あうんの呼吸ってやつですね。

で、そこに、新人が入った。

白いご飯だけ、出ました

何が起きたか、順番に言いますね。

新人の子は「蓋がしてある茶碗=肉待ち」を知らない。そもそも蓋がしてあるから、中にご飯が入ってることすら見えない。だから注文を見て、もう一杯、ご飯を盛ったんですよ。

——この時点で、調理台には茶碗が2つ。蓋の中でご飯が2つ待ってる状態です。

で、肉が焼き上がって、ベテランが仕上げて出すときに——「盛ってあるやつね、はいはい」って、肉の乗ってない方を持っていっちゃったんです。

つまりお客さんのところに、白いご飯だけが、出ました。(うちのメニューに、白ご飯単品はありません)

お客さんの「あれ?」

お客さんはね、「あれ?」って。そりゃそうですよね。チャーシュー丼を頼んだら、白飯が来たので。

テーブルには白ご飯の茶碗と、こっちには肉が乗った茶碗。「なんで2つあるんだ?」となって、すぐ気づいて、「すいません、間違えました!」って即交換。お客さんも怒ってはいなくて、「あれ?」だけで済みました。ほっとしましたけど、冷や汗ものでした。

犯人は、新人じゃない。ベテランでもない

さて、これ、誰のミスだと思います?

新人の子? ——違います。**教わってないことは、できないんじゃなくて、その子の中に「存在しない」**んですよ。「蓋=肉待ち」を知らなければ、追加で盛るのはむしろ正しい判断なんですよ。

じゃあ、白ご飯を出したベテラン? ——確認不足といえば、確認不足。でもね、それも表面なんですよ。

本当の犯人は、「蓋」です。

蓋をしたら、中身が見えない。なのにうちは、「中身がどういう状態か」っていう大事な情報を、蓋の中と、ベテランの頭の中にしか置いてなかった。あうんの呼吸で回ってたから、誰もそれを不便だと思わなかったんですよね。

白いご飯だけが盛られた茶碗のクローズアップ

あうんの呼吸は、ルールじゃない

ここが今日いちばん言いたいところです。

ベテランだけで回してる店って、あうんの呼吸で動くんですよ。言わなくても分かる。目配せで通じる。効率はいいし、正直、気持ちいいんですよ。

でもね、あうんの呼吸って、**ルールじゃなくて「慣れ」**なんですよ。

どこにも書いてないし、誰も教えられない。ベテランの頭の中にだけある。——ってことは、新人にとっては、存在しないのと同じなんですよ。

で、新人が入った瞬間、その「書かれてないルール」で回してた場所から、順番にミスが出る。今回の蓋が、まさにそれ。普段だったら絶対に起きないミスです。新人が入らなかったら、この穴、一生見つからなかったと思うんですよね。

新人は、店の検査員

だから僕は、こう考えることにしました。

新人は、店の検査員なんですよ。

ベテランだけだと、店の穴は慣れで塞がってて見えない。新人が入ると、慣れが通用しないから、穴が穴のまま露出する。ミスが増えるんじゃなくて——元からあった穴が、見えるようになるんです。

新人が入るたびに店のあちこちでつまずきが起きるのは、店が壊れてるんじゃなくて、店の棚卸しが始まったってことなんですよね。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも書いておきます。

「で、再発防止のルールは作ったんですか?」

正直に言うと——まだ作ってません。

「出す前に必ず蓋を開けて確認する」「ご飯を盛ったら一声かける」あたりをルールにしようとは思ってて。ただ、今回のはあまりにレアケースなんですよ。で、前に書いたとおり、ルールって増やせば増やすほど、管理コストがかかるんですよ。レアケースが起きるたびにルールを一個ずつ作ってたら、店がルールだらけになって、誰も全部覚えられなくなる。

だから、もう一回起きそうな気配が出たら、その時点でルール化します。破られた既存ルール(シフトの締切みたいな)は守らせる。まだ無いルールは、必要になってから作る。——線引きはここです。

「白ご飯を出されたお客さんが、かわいそうでは?」

そのとおりで、ここは言い訳しません。すぐ交換して「あれ?」で済んだのは、お客さんの優しさに救われただけで。反省してます。

「結局、妹さんのミスなんじゃ……?」

違うんですよ、ここははっきり書いておきますね。あの子は教わってないことに出会っただけです。むしろこの一件のおかげで「蓋の中の情報は、ベテランの頭の中にしかない」っていう店の弱点が見つかった。検査員として、初仕事をしてくれたわけですね。

蓋を開けて、茶碗の中を確認する手元

ミスが増えたんじゃない。穴が見えただけ

まとめますね。

新人が入ると、ミスが起きます。でもそれは、ミスが増えたんじゃなくて、元からあった穴が見えるようになっただけなんですよ。あうんの呼吸はルールじゃない。ベテランの頭の中にしかない段取りは、新人には存在しないのと同じ。

だから新人が入ったら、ミスを数えるんじゃなくて、見つかった穴を数えるといいですよ。うちは今回、1個見つかりました。

——検査は、まだ始まったばかりです。