「店長、これやりづらいです」——店の道具が、俺の握力に合わせて作られてた話
2026-09-21

今日はね、目から鱗が落ちた話をします。経営の考え方の見直しになった話なので、今日のはかなり参考になると思いますよ。耳の穴かっぽじって、読んでいってください(笑)
味玉は、温めてから乗せる
まず前提から。うちはトッピングで味玉が出たら、必ず温めてからラーメンに乗せます。
冷蔵庫から出した冷たい卵をそのまま入れると、スープが冷めちゃうんですよ。逆に、温かい状態で乗せるとスープと馴染んで、ちょうどおいしくなる。だから注文が入るたび、お湯で温める——これがうちの段取りです。
温める容器は、子ども用の茶碗でした
で、その温める容器が何かというと——プラスチックの、子ども用のお茶碗です。
あれに麺釜のお湯を入れて、その中で味玉を温める。開店からずっとこれでやってきました。何年も、です。
ただこの茶碗、正直、お湯がちょっと入れづらいんですよ。で、何回も使ってるとぬめりが出て、つるっと滑る。手からバシャッといきそうになることが、稀にある。
でも俺は、こぼしません。握力が強いので。(ちょっと自慢です)
主婦さんが、こぼした
で、先日です。主婦のスタッフが味玉を温めようとして——つるんと滑って、こぼしたんですよ。
先に言っておくと、やけどはありません。そんなに熱くないお湯だったので。原因は熱さじゃなくて、ぬめりで滑ったこと。
考えてみたら当たり前なんです。あの茶碗、取っ手がない。親指と人差し指でつまんで持つしかない。熱いものを扱うから慎重になるし、俺ほど握力があるわけでもない。——滑る条件が、そろってたんですよね。
「取っ手のついたやつに、した方がいいんじゃないですか」
そのあと、主婦さんが言ってくれたんですよ。
「店長、これ、つるつる滑ってやりづらいです。取っ手のついた入れ物——液体を測るやつみたいなの、ありますよね。小さすぎても大きすぎてもダメだから、500mlくらいのにした方がいいんじゃないですか」
……あ、なるほどな、と。
計量カップですよ。取っ手があるから滑らない。注ぎ口があるからお湯も入れやすい。500mlなら味玉がちょうど浸かる。——完璧な答えを、もらっちゃったんです。

「俺はできる」は、基準にならない
ここからが、今日いちばん言いたいところです。
なんで俺は、何年も気づかなかったのか。
俺はできてたからなんですよ。握力が強いから、滑らない。何年もやってきたから、疑問にすら思わない。「やりづらい道具」が、俺の手の中でだけ「やりやすい道具」になってた。
つまりうちの店の段取りって、気づかないうちに、**「俺仕様」**になってたんです。俺の握力、俺の身長、俺の慣れに合わせた設定・準備・シナリオ。作った本人は一生気づきません。だって、本人はできちゃうから。
でも店って、俺一人で回すもんじゃないんですよ。主婦さんも、高校生も、入ったばかりの子も使う。だとしたら——
店の道具は、いちばん力の弱い手に合わせる。 これが正解なんです。いちばん弱い手でやりやすい道具は、全員にとってやりやすい。逆は成り立たない。
この前書いた「蓋」の話と、根っこは同じです。あっちは情報がベテランの頭の中にしかなかった。今回は道具が俺の手に合わせてあった。店の穴は、作った本人には見えないんですよ。
……と、ここまで言うとね、こう思いますよね
自分へのツッコミも書いておきます。
「で、計量カップは買ったんですか?」
まだです(笑)。営業中に言われたので、買いに行く時間がなくて。次の買い出しで、取っ手つきの500mlを買ってきます。ここで宣言しておけばサボれないので、書いておきます。
「この前(シフト締切の話)は主婦さんの意見を飲まなかったのに、今回は即採用。人によって差をつけてません?」
いい質問ですね。差をつけてるのは「人」じゃなくて「中身」です。
締切の話は、ルールを曖昧にする方向の意見だった。飲んだら管理コストが増える。今回は、作業をやりやすくする方向の提案で、飲んだらミスとコストが減る。——物差しは同じで、「全体で見て、店が良くなるか」。それだけなんですよ。
「言われるまで気づかないの、店長としてどうなんですか?」
恥ずかしい。正直、恥ずかしいです。
でもね、さっき書いたとおり、自分で作った段取りの穴は、自分では見えないんですよ。だから大事なのは「全部自分で気づくこと」じゃなくて、「やりづらいです」って言える空気があること。言ってくれた主婦さんに、感謝してます。あの一言がなかったら、この先も誰かがこぼし続けてたので。

自分仕様に、なってないか
まとめますね。
長くやってる店ほど、道具も段取りも、作った人仕様になっていきます。作った本人はできちゃうから、疑問にすら思わない。そこに別の手が入ったとき、初めて穴が見える。
だから、たまに自分に聞くといいですよ。**「これ、俺ができるだけじゃないか? 全員が、できる形か?」**って。
うちの子ども用茶碗は、長年ありがとうってことで、近々引退です。次の買い出しで、全員の手に合う道具に代わります。