嫌いは、いきなり咲かない——嫌われる覚悟で、注意した日

閉店後の静かな店内、カウンター席の引きの画

今日はね、あんまり気持ちのいい話じゃないです。

スタッフに、注意した話です。しかも、けっこう踏み込んだやつを。

でも、こういう日のことこそ書いておきたいので、正直に書きます。

言わずに飲み込んだら、俺のストレスになる

今日、仕事中に気になったことがあったんですよ。

で、一瞬迷ったんです。言うか、言わないか。

言わないで飲み込んでおくのは、簡単なんですよね。その場は丸く収まるので。でも僕、分かってるんです。これ、飲み込んだら多分、俺がまたストレスを溜めるなって。溜めたストレスって、消えないんですよ。いつか、もっと悪い形で出る。

だから、言うことにしました。

タイミングは、仕事が終わってから。片付けも終わって、上がりまで10分くらいあったので、「ちょっと話があるよ」って呼びました。

作業しながらの注意って、聞けないんですよ。聞く側も話す側も、ちゃんと整った場所じゃないと入らないので。もちろん、他のスタッフの前ではやらない。二人きりで、ですね。

「君に、二つ話すことがある」

で、最初にこう言いました。

「君に、二つ話すことがある」

これ、意識してやってます。何も考えないで話し始めると、説教って長くなるんですよ。で、長い説教って、内容が正しくても嫌じゃないですか。先に「二つ」って数を言っちゃえば、こっちも二つで終わらせるしかないし、聞くほうも「二つなんだな」って構えられるので。

一つ目:ラーメンの置き方が、雑になってる

一つ目は、提供のとき。ラーメンの出し方が雑になってるって話です。

これね、俺の話なんですけど——お客としてよその店に行ったとき、一回は経験あると思うんですよ。商品が来て、「お待たせしました」も何もなく、目の前にストン。置いた人は、ふっと振り返って、すたすた歩いていく。

あれ、一瞬「え?」ってなりません? 僕はなります。

本当はこうですよね。「お待たせしました、ラーメンです」って言ったら、「あ、はい」って反応がある。その反応を見てから、その人の前に置く。 ラーメンとチャーシュー麺なら、なおさらです。どっちの人か、確認してから出す。普通に考えたら当たり前なんですけどね。

で、今日、彼女がラーメンを出して、そのあとに僕がチャーシュー麺を持っていったんですよ。そしたら——お客さんの目が、点になってた。

「え、何?」っていう顔です。僕が「チャーシュー麺で?」って聞いたら「あー、はい」ってなったんですけど、あの顔を見て分かりました。ああ、さっきの一杯、雑にストンと置いて帰ってきたんだろうなって。

お客さんはね、気分良く食べに来てるんですよ。そこに雑に置かれたら、「何だい」ってなるでしょう。丼を置く3秒で、その一杯の印象が変わるんです。

カウンター越しに、両手で丁寧に丼を置く手元

二つ目:注意されたとき、返事がなかった

二つ目は、もっと小さいことです。でも、こっちのほうが根が深い。

今日、彼女が落ちたものを拾ったので、「手、洗おうね」って言ったんですよ。そしたら——無言で、手を洗いに行った。

行動は正しいんです。手は洗ってる。でも、返事がない。

だから聞きました。「なんで、手を洗おうって言ったとき、返事しなかったの?」

返ってきた答えが、これです。

「あ……なんか、何も考えてなかったです」

厨房のシンクで手を洗う手元

返事をしないと、何が起きるか

ここからは、彼女に話したことをそのまま書きますね。

そうやって返事をしないとね、注意した人が、不快になるんだよ。

で、人っていうのは、そういう積み重ねで感情が変わるんだよ。一回の無言じゃ嫌いにならない。でも、それが重なっていくと、相手はあなたのことが正直、嫌いになっていく。

あなたに悪気がなかろうと、関係ないんだよ。そういう行動を取ってしまった積み重ねで、人はあなたに優しくできなくなっていくんだよ——って。

それとね、細かいことだと思うでしょ? これが社会に出ると、めちゃくちゃ大事になってくるんですよ。友達同士なら許される。「あいつ、そういうやつだから」で済む。でも社会に出たら、友達じゃないんです。他人同士、それも、がちがちの他人同士になっていく。だからこそ、「はい」のひとことみたいな、ちょっとした言葉が効いてくるんです。

心は、行動に現れる

もうひとつ、聞いたんですよ。「あなた、ラーメンを出すとき、どんな思いで出してるの?」って。

答えは、さっきと同じでした。

「いやー……何も考えてないです」

——それだ、と思いました。

心って、行動に現れるんですよ。 「何も考えてない」っていう心が、そのまま、あのストンっていう置き方に出てた。答え合わせが済んじゃったんですよね。だから言いました。そんな作業じゃ駄目だよ、あなたは仕事をしなきゃいけないんだよって。

「俺にも、リスクがあるんだよ」

で、最後に、これも本人に言いました。ここが今日いちばん書きたかったところです。

「俺がこれをあなたに話すのって、リスクもあるんだよ」

だって、あなたは今、「ああ、うるせえな」って思ってるかもしれない。ってことは、俺は嫌われるリスクを背負って言ってる。本当だったら、言わなければ円満に終わるんですよ。何も起きない。いい店長のままでいられる。

でも、わざわざ言ってるってことは——あなたが不快に思ったら、俺はちゃんと嫌われる。その覚悟で言ってる。それでも俺は、あなたに言わなきゃいけない。だって俺、こんな店にしたくないからねって。

(言ってる俺も、実はけっこう緊張してるんですよ)

夜、営業後のカウンターに置かれた二つの湯呑み

なんで今日言ったのか——嫌いは、芽から咲く

なんで様子見しないで今日言ったのか、っていうとね。

人が誰かを嫌になるときって、いきなり嫌にはならないじゃないですか。小さいことが積み重なって、芽が出て、葉っぱが出て、花が咲く。

花が咲いてから引っこ抜くのは、大ごとなんですよ。お客さんの中で咲いたら、もう来てくれない。スタッフ同士で咲いたら、店の空気が壊れる。

でも、芽のうちなら、摘むだけで済む。 小さい話で済むんです。だから、あえて今日、言いました。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも書いておきます。

「で、彼女には響いたんですか?」

正直に書きます。——3割か、4割です。

「はい、はい」とは言ってました。でも僕の感覚では、まだ全部は理解できてなくて、言われたから一応返事してる、が半分。それでも、3〜4割は聞いてくれたかなと。

じゃあ失敗かというと、そうは思ってないんですよ。前に書きましたけど、うちのやり方は「お店のやり方はこうだからね」って、何回か言うんです。一回の話で人が変わるなんて、最初から思ってません。今日のは、一回目の種まきです。

「それ、パワハラっぽくなりません?」

そこは、かなり気をつけてます。

まず、人前でやらない。 二人で、整った場所で。それから、「お前が悪い」で終わらせない。返事をしないと、あなたが損をする——嫌われていくのはあなたなんだよ、っていう、彼女のための説明をセットにする。注意って、店のためであると同時に、その子が社会に出たときのためでもあるので。

「黙ってれば円満なのに、割に合わなくないですか?」

短期では、割に合わないです(笑いごとじゃなく)。嫌われるかもしれないし、気まずいし、こっちも消耗するので。

でも、長期で見ると逆なんですよ。言わずに溜めたものって、いつかもっと強い形で爆発する。そのときの被害と比べたら、今日の10分は安い買い物です。

プランターの土から出たばかりの、小さな芽

摘むなら、芽のうち

まとめますね。

今日、僕がやったことは三つです。溜めずに、その日のうちに言う。先に「二つある」と数を決めて、短く言う。嫌われるリスクを背負ってることまで、本人に伝える。

響いたのは、3〜4割かもしれません。それでも、言わないよりずっといい。

嫌いは、いきなり咲かないんですよ。芽が出て、葉っぱが出て、花が咲く。

だから、摘むなら芽のうち。——今日はその、芽を摘んだ日でした。