「だが断る」——賄いを頼まれた店長の、返事の話

厨房のカウンター越しに、湯気の立つまかないのラーメンを差し出す手元

昨日あった、ちょっと面白い話をさせてください。

今日は軽い話です。重い話が続いたので、たまにはね。

「賄い、お願いします」

うちのスタッフの女の子がね、「賄い食べたいんで、お願いします」って言ってきたんですよ。

うん、分かったよ——と思ったんですけど、そこで僕、ピーンと来たんです。

この子ね、アニメとか漫画がすごく好きな子なんですよ。オタクってほどじゃないんだけど、けっこう詳しい。前に一度、漫画の話で盛り上がったことがあって、女性であの漫画に詳しい人はあんまりいないから、覚えてたんですよね。

で、僕はこう返しました。

「賄い、いいよ。今日食べたいの?」

「はい」

「ラーメンでいい?」

「はい」

——「だが断る」

けたけた笑ってくれました

これね、『ジョジョの奇妙な冒険』の岸辺露伴っていうキャラクターの、超有名なセリフなんですよ。知ってる人は、今この瞬間ニヤッとしてるはずです。

そしたらその子、けたけたけたけた笑ってね。

そりゃそうですよね。バイト先の店長から、まさかジョジョの名言が飛んでくるとは思ってないわけですから。

そこからちょっと、店の空気が和やかになりました。楽しいバイトの時間になったと思うし——正直、僕自身が楽しかったです(笑)

ちなみにもちろん、そのあとちゃんと作りました。断ってません。

実は僕も、子どもの頃から好きなんですよ

種明かしをするとね、僕自身がジョジョ好きなんです。漫画もアニメも、子どもの頃から。

あの漫画って、面白い性質があって——知ってる人はめちゃくちゃ知ってる。知らない人は、一切分からない。 きれいに分かれるんですよ。絵も独特ですしね。

でも、好きな人同士だと、名言とかポーズとかで一瞬で盛り上がれる。合言葉みたいなもんなんです。

あの子の場合、それが当てはまった。だから「だが断る」の一言が、その子専用の返事として機能したんですよね。

ちなみに僕が読んでるのは原作の漫画です。気になった方はどうぞ。

Amazonで『ジョジョの奇妙な冒険』を探してみる

楽天で『ジョジョの奇妙な冒険』を探してみる

机の上に積まれた漫画の単行本

スタッフに合わせて、トークを変えてます

で、今日書きたかったのは、ここなんですよ。

僕ね、スタッフに合わせて、話す内容を変えてるんです。

漫画好きの子には、漫画の話。ジョジョが通じる子には、ジョジョの名言。別の子には、また別のチャンネル。相手の周波数に、こっちが合わせにいくんですよ。

これ、特別なことをしてるわけじゃなくて——前に書いた話の続きなんです。

雑談で聞いた話を、覚えておく。スタッフの旦那さんが盃で酒を飲む話を覚えてたから、旅先で枡が目に入った。あの子がジョジョに詳しいのを覚えてたから、賄いの注文で「だが断る」が出せた。

覚えてるから、その人専用の一手が打てるんですよね。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも書いておきます。

「店長がスタッフに媚びてません?」

うーん、媚びとはちょっと違うと思ってて。

媚びって、嫌われたくなくてやることじゃないですか。僕がやってるのは、その場を楽しくしたくてやってることなんですよ。現にあの一言、僕がいちばん楽しんでましたから(笑)

それに、注意するときはちゃんと注意します。楽しくすることと、締めるところを締めることは、両立するので。

「全員にそれ、できます?」

できません。通じる相手にしか、やりません。

ジョジョを知らない子に「だが断る」って言ったら、ただの意味不明な店長です。むしろ怖い。

だからこれ、相手を見てから出す技なんですよ。同じギャグを全員に言うのは営業トークで、その人にだけ通じる一言を選ぶのが雑談なんだと思います。

「たかが賄いの返事に、そこまで考えます?」

考えてないです(笑)。ピーンと来ただけです。

でもそのピーンが来るのは、日頃から雑談して、覚えてるからで。仕込みがあるから、とっさの一言が出るんですよ。ラーメンと一緒です。

休憩スペースで、まかないを食べる若いスタッフの後ろ姿

職場の楽しさは、専用の一言でできてる

まとめますね。

「賄いお願いします」に対する返事なんて、「いいよ」の一言で済むんですよ。それで何の問題もない。

でも、そこにその子専用の一言を挟むと——けたけた笑って、空気が和やかになって、バイトの時間がちょっと楽しくなる。

コストは、ゼロです。仕込みは、日頃の雑談だけ。

職場の楽しさって、たぶん、こういう「専用の一言」の積み重ねでできてるんじゃないかなと思ってます。

——ちなみにこの記事のタイトル、ジョジョを知らない人には全然意味が分からなかったと思います。それでいいんです。 あの子に通じたので。