会ったこともない旦那さんに、枡酒セットを買った話——雑談は、覚えててこそ

木の枡の中のコップから、日本酒があふれている

今日はね、お土産の話です。

ただのお土産じゃなくて——会ったこともない人へのお土産の話。

仕込み中の、なんでもない雑談

まず、時間を少し巻き戻しますね。

うちの店、仕込みの時間とかオープン前の空き時間に、スタッフと雑談するんですよ。前に「調子悪いの?」の記事でも書きましたけど、僕はこの時間をけっこう大事にしてて。

で、あるときパートさんが、旦那さんの話をしてくれたんです。

「うちの旦那、お酒を飲むとき、形から入るんですよ」

聞けばね、戦国武将がお酒を**盃(さかずき)**で飲んでるのを見て、影響されたらしいんですよ。

**「よし、俺も盃で飲むぞ」**って。

それで本当に、あの平たい盃で飲んでるらしいんです(笑)

……この旦那さん、ちょっといいですよね。会ったことないんですけど、僕はこの話がなんか好きで、頭の隅に残ってたんですよ。

旅先で、あれを見つけた

で、先日。休みの日に、経営者仲間とドライブに出かけたんです。お互いの商売の話なんかしながら。

立ち寄った先でね、見つけちゃったんですよ。

枡酒(ますざけ)のセット。

枡の真ん中にコップを入れて、お酒を注いで、わざとこぼして——こぼれた分まで飲む、あの「もっきり」ってやつです。居酒屋で見る、あれ。それがセット商品で売ってた。

見た瞬間、思ったんです。

「あ、これ、あの旦那さんに買っていこう」

ちなみに、僕が買ったのはこういう感じのやつです。気になった方はどうぞ。

楽天で「枡酒セット」を探してみる

土産物屋の棚に並ぶ酒器を、手に取ろうとしている

面識、ほぼないんですけどね

ここでね、正直なことを書きます。

僕と旦那さん、面識はほぼないんですよ。 話したことも、ちゃんとはない。

じゃあなんで買うのかというと——

それを買っていくと、スタッフが喜ぶじゃないですか。 奥さんが。

自分へのお土産より、自分の大事な人へのお土産のほうが、嬉しいときってあるんですよね。メロンを配った記事で「家族に届くものを選ぶ」って書きましたけど、今回はそのピンポイント版です。家族みんなへ、じゃなくて、旦那さんの趣味のど真ん中へ。

「形から入るの、お好きって言ってましたよね」

で、渡すとき。こう言って渡したんです。

「旦那さんにどうぞ。お酒、形から入るのお好きって言ってましたよね」

——ここ、実はこの話の心臓です。

このひとことでね、伝わるんですよ。**「あのなんでもない雑談、覚えてたよ」**って。

枡はただの木の箱です。でも「言ってましたよね」が付いた瞬間、聞いてた証明になる。仕込み中の、本人も忘れてるような雑談を、店長が旅先で思い出した——その事実のほうが、たぶん枡より嬉しいんですよね。

翌朝、ウイスキーが返ってきた

そしたらね。

翌日の朝ですよ。 ウイスキーが返ってきたんです。

しかも——僕がハイボール好きなの、向こうも知ってたんですよ。

つまりこうです。僕は旦那さんの盃の話を覚えてた。向こうも、僕の酒の好みを覚えてた。

「覚えてた」と「覚えてた」の交換なんですよ、これ。

で、正直に言うとね、お返しのほうが大きくなっちゃって(笑)。枡セットより、ウイスキーのほうが明らかに上等でした。なんか、すみません。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも書いておきます。

「それも計算でやってるんですか?メロンのときみたいに」

今回はね——計算じゃ、できないんですよ。

考えてみてほしいんですけど、これが成立する条件って「旅先で、何ヶ月も前の雑談が、ふっと頭に浮かぶ」なんです。浮かばなかったら、何も起きてない。

計算は、覚えてるものにしか使えないんですよ。雑談を覚えてるかどうかは、計算より手前にあるんです。だから今回のは、技じゃなくて——たぶん、日頃の雑談の時間そのものが効いてる。

「お返し目当てと思われませんか?」

翌朝ウイスキーが来るなんて、思ってもみなかったです。

というか、面識のない旦那さんからお返しが来る前提で動く人、いないですよ(笑)。あれは完全に、向こうの気持ちです。ありがたく、ハイボールにしていただきました。

「スタッフの家族にまで踏み込むの、距離が近すぎません?」

これはね、順番が大事だと思ってます。

向こうが先に、雑談で旦那さんの話をしてくれたんですよ。こっちから聞き出したんじゃない。開けてくれた扉に、あとから贈り物が通っただけで。

自分から家族のことを聞き回ってたら、たしかに近すぎます。雑談で預かったものに、返しただけ——そこの線は、守ってるつもりです。

夜、テーブルの上のハイボールのグラス

職場の関係は、給料だけでできてるんじゃない

まとめますね。

仕込み中の雑談で、旦那さんの盃の話を聞いた。旅先で思い出して、枡酒セットを買った。「言ってましたよね」を添えて渡した。翌朝、僕の好みを覚えてたウイスキーが返ってきた。

——この小さな循環が、関係性を作るんだと思うんですよ。

給料は、もちろん大事です。何度も書いてきました。でも給料って、毎月同じ形で届くものなんですよね。

雑談を覚えてた、っていうのは違うんです。その人のためだけの、一回きりの形で届く。だから効くんだと思います。

スタッフとの関係で悩んでる方がいたら、ひとつだけ。

仕込み中の雑談、ちゃんと聞いてますか?

あそこにね、ぜんぶ置いてあるんですよ。その人の大事なものが。

この話は、歌にもなっています

会ったこともない旦那さんに、枡酒セットを買った話

YouTubeで聴く:「枡と、ウイスキー」— 現場のうた