ラーメン屋が、よそのラーメン屋で見ているところ——味には、あんまり興味がないんですよ
2026-09-05

今日はね、職業病の話をします。
ラーメン屋が、よそのラーメン屋に食べに行くとき、何を見てるか。——これ、けっこう深いんですよ。
で、先に白状しておきますね。
味には、あんまり興味がないんです。
……ラーメン屋がそれ言うか、って話なんですけど(笑)。理由はあとで書きます。
まず、入り口です
店に入る前から、もう始まってます。
入り口の掃除が、されてるかどうか。
ここ、いちばん最初に見ます。のれんをくぐる前に、足元を見てるんですよ。
それから——ラーメン屋って、入り口に券売機がある店が多いじゃないですか。あそこに貼ってある文言を、けっこう気にします。
手書きなのか。パソコンで作ってるのか。そしてその紙が、ボロボロなのか。きれいで見やすい紙になってるのか。
紙一枚なんですけどね。「お客さんが最初に読むもの」をどう扱ってるかが、そこに出るんですよ。ここまでが、第一段階です。
古くても、手入れされてるか
中に入ったら、店内の綺麗さを見ます。
ただしここ、大事なところがあって。「新しいから綺麗」は、見てないんです。
新しい店が綺麗なのは、当たり前なんですよ。お金を出せば買える綺麗さなので。
僕が見てるのは——古くても、ちゃんと手入れがされてるかどうか。
年季の入ったカウンターが、拭き込まれて艶が出てる。古い床が、隅まで掃除されてる。あれって、その店の店主の考え方がそのまま出るんですよね。僕は、それを見るのが好きなんです。
食券の、受け取り方
券売機の店なら、食券を渡す瞬間がありますよね。
あそこで、受け取る人がどんなテンションで、どんな表情をするか。
心でやってるのか。作業でやってるのか。
食券を受け取るなんて、ほんの一秒です。でもその一秒に、熱が入ってるかどうかって——分かっちゃうんですよ。 前に「やる気は言葉に出る」って書きましたけど、あれと同じです。出ちゃうんです、どうしても。

座り直すフリをして、厨房を見る
で、席についたら。
座り直すフリをして、厨房がどうなってるか、ちらっと見ます。
バレないようにね(笑)。もう癖みたいになってます。
厨房の綺麗さって、客席から全部は見えないんですよ。でも、ちらっと見える範囲にその店の全部が出てると思ってて。見える範囲が整ってる店は、見えない範囲も整ってるものなので。
で、なんで味に興味がないのか
ここ、ちゃんと説明しますね。
味って、人によるんですよ。 僕がうまいと思っても、隣の人は違うかもしれない。濃いのが好きな人、あっさりが好きな人。だから正直、よその店の味については、何とも言えないんです。
それより僕が気になるのは——
「また来たくなる店かどうか」は、何で決まってるのか。
雰囲気。人。この店の人たちが、何を考えて商売してるのか。そっちのほうが、よっぽど気になるんですよ。
だって、味が90点でも「もう来なくていいや」って店、あるじゃないですか。逆に、味は普通なのに、なぜかまた行っちゃう店も。その差がどこにあるのか——僕が食べに行って見てるのは、結局それなんです。
最後の試験は、帰り際です
そして、いちばん見てるのが帰り際です。
「ごちそうさま」って言ったとき、店主や店員が、どんな対応をするか。
考えてみてほしいんですけど、店側からしたら、僕は数百人のうちの一人なんですよ。常連でもない、ただの一見客。
その「何気ない一人」に、どんな対応をするか。 そこに、店の全部が出ると思ってます。
忘れられない店の話
ここで、実際にあった店の話をさせてください。
「ごちそうさま」って言って帰るときね、たいていの店は、作業しながら下を向いたまま「ありがとうございましたー」なんですよ。目線は、こっちを見ない。
でもある店はね——作業の手の中で、一瞬だけ、こっちをちらっと見て言ってくれたんです。
たった一瞬ですよ。でもね、めちゃくちゃ嬉しかったんです。
「あ、あの店員さん、忙しいのに、こっちのことを少し気にしてくれた」って。
これ、絶対に真似しようと思いました。
忙しいときほど、逆なんですよ
ここが今日、いちばん言いたいところです。
ほとんどの人はね、こう考えるんですよ。
「忙しいんだから、目線を合わせられなくてもしょうがないよね」
——逆なんです。考え方が、逆。
忙しいさなかに一瞬だけ目線をくれるから、「あの忙しさの中で、ちゃんと言ってくれた」が伝わるんですよ。
暇な店の「ありがとうございました」より、満席の店の一瞬の目線のほうが、何倍も重い。忙しいときほど、やったほうがいいんです。
……と、ここまで言うとね、こう思いますよね
自分へのツッコミも書いておきます。
「よその店をジャッジして回るの、感じ悪くないですか?」
うーん。ジャッジというより、勉強のつもりなんですよ。
いいところは真似する。「ああはならないぞ」も持ち帰る。よその店は、お金を払って入れる教科書なんです。
それにね、これ、ブーメランなんですよ。僕がよその店をこう見てるってことは、うちの店も、誰かにこう見られてるってことなので。食べに行くたび、ちょっと怖くなって帰ってきます。
「味に興味がないって、ラーメン屋失格では?」
自分の店の味には、興味だらけですよ(笑)。丼が返ってくるたびテストだと思って見てるくらいなので。
よその店の味を「うまい・まずい」で語っても、自分の店に持ち帰れるものが少ない、っていう話です。持ち帰れるのは、味以外のところに転がってるんですよ。
「で、実際に何か持ち帰ったんですか?」
あります。さっきの帰り際の目線が、いちばん大きいやつ。
あとね、めちゃくちゃ些細なんですけど——ある小上がりの店で、座布団がふかふかで、気持ちよかったんですよ。それだけのことなんですけど、「あ、これ僕も真似しよう」って思いました。
座布団ですよ?(笑)。でも、そういう些細なものの積み重ねが「なんかいい店だったな」を作ってるんですよね。小物ひとつ、配置ひとつ。そういうところ、気にして見てます。

よその店を見る目は、自分の店に返ってくる
まとめますね。
僕がよその店で見てるのは、入り口の掃除、貼り紙の紙、古いものの手入れ、食券を受け取る一秒、厨房のちら見え、そして帰り際の一瞬。
ぜんぶ、味以外です。
で、面白いのはね。見て帰ってくると、必ず宿題が増えてるんですよ。
うちの入り口、掃除できてるか?券売機の貼り紙、ボロボロになってないか?僕は食券を、心で受け取ってるか?——よその店を見る目は、そのまま自分の店に返ってくるんです。
だから僕は、よその店に食べに行くのが好きです。
一杯のラーメン代で、教科書と宿題がついてくるので。