うちの店のBGMは、ラジオです——競馬中継が流れるラーメン屋の話

厨房の棚に置かれた小さなラジオと、湯気の立つ寸胴

今日はね、ちょっと変わった話をします。店で流してる音楽の話。

たぶん、経営の役に立つ話ではないです(笑)。でも、なんか書きたくなっちゃったんです。

うちのBGMは、ラジオです

先に言っちゃうと、うちの店で流れてるのはラジオです。

音量は、うるさくない程度。でも、ちゃんと聞こえる。カウンターに座って、ふっと耳を澄ませば「あ、ラジオだな」って分かるくらい。

今どき、ラジオを流してるラーメン屋って、あんまりないですよね。正直。

有線とか、店主のこだわりのプレイリストとか、そういうのが普通じゃないですか。うちは、ラジオです。

最初はCDにするつもりだった

開店のときはね、CDを流そうと思ってたんですよ。自分の好きな曲を、店に流したかったんです。

でも調べてみたら、お店で音楽を流すには権利の問題があるらしくて。買ったCDだからって、自由に流していいわけじゃないんですね。ちゃんとやろうとすると、手続きとお金がかかります。

で、まあ、そこまでして流すほどのこだわりも、当時はなくて。とりあえずラジオ。

その「とりあえず」が、もう何年も続いています。

競馬が流れた日

ラジオってね、こっちで選べないじゃないですか。何が流れてくるか。

ある日、営業中に厨房で麺を上げてたら——競馬の中継が流れてきたんですよ。

「第4コーナーを回って——」って。

いや、ラーメン屋で競馬中継って(笑)。麺を茹でながら、内心クスッとしちゃって。競馬が流れるラーメン屋、なかなかないぞって。

さすがに場違いなんで、今はその局は流してないんですけどね。でも、あの瞬間は、ちょっと好きでした。

演歌が流れる日もあります。演歌とラーメンは、まあ、合わなくもないです。

カウンター席で、スマホを見ながらラーメンを食べる人の手元

お客さん、聞いてないんですよ

で、ここからが本音なんですけど。

競馬が流れようが、演歌が流れようが——お客さん、たぶん聞いてないんですよ。

だってみんな、iPhone眺めてますからね。丼が来るまでスマホ、食べながらもチラチラスマホ。耳は、店のほうを向いてないんです。

だから僕、店のBGMって、お客さんのためというより、店の空気のためにあるんだと思ってて。

無音の店って、緊張するんですよ。麺をすする音、食器の音、厨房の音。それだけだと、なんか、お互い気を遣う。ラジオが薄く鳴ってると、その隙間が埋まります。誰も聞いてないけど、無いと困る。 そういう存在です。

ラジオのいいところ、困るところ

ラジオにしてよかったなって思うのは、時報ですね。

「ピッ、ピッ、ピッ、ポーン」って鳴ると、「あ、もう12時か」って気づく。手が止まりません。時計を見れば済む話なんですけど、厨房で手が塞がってると、耳で分かるのがありがたいんですよ。

困るのは、天気が悪い日

雪が降るとね、ノイズが走るんです。ザーッて。こっちは雪国なんで、冬はけっこうな頻度で。お客さんがいる前で「ザザッ」ってなると、ちょっと恥ずかしい。でも直しに行く手も空いてない。そのまま営業しています。

自分の曲は、流しません

これ、聞かれることがあるんですけど——僕、YouTubeで音楽を流すチャンネルをやってるんですよ。落ち着いた曲を並べてるやつ。

で、「それ、店で流せばいいじゃん」って言われる。

流しません。あれは店とは関係ないから。

店は店、チャンネルはチャンネル。混ぜると、どっちも中途半端になる気がします。店で流す音は、お客さんの食事の邪魔をしないことが一番で、僕の趣味を聞かせる場所じゃない。

……って言うと格好いいんですけど、単純に、自分の作ったものを自分の店で流すのが、ちょっと照れくさいっていうのもあります(自分で言うのもなんですけど)。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも書いておきます。

「こだわりがないだけでは?」

——はい、そのとおりです。BGMにこだわりは、ないです。

でもね、こだわらないことを決めてる、とは言えると思ってて。こだわる場所は、スープと麺と、お客さんの前での動き方。そっちに全部使ってるので、音楽まで回らないんです。ラジオは、こだわらないという判断です。

「権利の問題、ちゃんと調べました?」

正直、開店当時にざっと調べただけです。今はもっと簡単に、お店向けの音楽サービスがあるらしいですね。いつか変えるかもしれません。でも、今のところ困ってないので、ラジオのままです。

閉店後の静かな店内。カウンターの端で小さく光るラジオ

誰も聞いてない音が、店を支えてる

まとめますね。

うちのBGMはラジオ。CDは権利の問題で見送って、とりあえずで始めたラジオが、何年も続いてる。競馬や演歌が流れることもあるけど、お客さんはたぶん聞いてない。時報はありがたくて、雪の日はノイズが走る。自分の曲は流さない。

誰も聞いてない。でも、無いと店の空気が変わる。

店って、そういうもので、けっこう支えられてるんですよね。目立たないけど、抜くと分かるものです。

あなたの店(や職場)にも、ありませんか。誰も気にしてないけど、止めたら急に落ち着かなくなるもの。

そういうのを、大事にしていきたいなって思ってます。