人を雇う・育てる

「店長は学生時代、クリスマスは…?」——入ったばかりのスタッフに、雑談を振られた日

閉店後の厨房で、洗い終わった丼が重ねられている

閉店後、片付けをしてたときの話です。

「姉を超えたい」と言って入ってきた挑戦者の子、覚えてます? あの子が、先輩スタッフと一緒に片付けをしながら、ちょこちょこ恋愛の話をしてたんですよ。

僕は、ちょっと離れたところで作業してて。

そしたら、急にこっちに飛んできたんです。

「店長は、学生時代、クリスマスって女の人と過ごしたりしたんですか?」

……うっ、ってなりました(笑)。

答えは、どうでもいいんです

一応、答えておきますね。

僕は高校時代、部活しかやってこなかったんです。それに、女の子と話すだけで緊張するタイプで。自分から話しかけることもないし、ルックスもいいほうじゃなかったので、モテるほうでもなかった。

だから、クリスマスなんて、ないない。

……まあ、この話はいいんですよ。正直、どうでもいい。

大事なのは、そこじゃないんです。

向こうから、話しかけてくれた

大事なのは、あの子のほうから、僕に質問してくれたってことなんです。

これね、経営者をやってる人なら、分かってもらえると思うんですよ。なかなか、ないことなんです。

入ったばかりのスタッフが、店長に、ちょっとしたプライベートのことを、楽しそうに話してくる。仕事の質問じゃなくて、雑談を。

店長って、スタッフから見たら、たぶん話しかけにくい存在じゃないですか。仕事のことなら聞けても、それ以外の話は、なかなか振れない。

それが、向こうから来た。

冬の夜、結露した窓の向こうに、町の小さな明かりがにじんでいる

たぶん、慣れてきたんだと思う

なんで話しかけてくれたのか。

たぶん、あの子自身が、店の雰囲気に慣れてきたんだと思います。それと——働いてるのが、楽しそうに見えてきたんですよね、僕から見て。

最初は緊張して、言われたことを一生懸命こなしてた子が、片付けの時間に先輩と恋愛の話をして、店長にまで話を振ってくる。

店が、あの子にとって「ちょっと居心地のいい場所」になってきたんだとしたら。それは、店をやってる人間として、すごくうれしいことなんですよ。

こういう子は、大事にしたい

こういうスタッフは、大事にしたいなって思いました。

それと、人としても、伸びてほしい。

仕事ができるようになってほしいのはもちろんなんですけど、それだけじゃなくて。この店で働いたことが、あの子のこれからに、何かしら残ったらいいなって。

だから——大当たりです。

「大当たり」の意味

ここ、ちゃんと書いておきますね。

「大当たり」って言うと、人を当たりとか外れとかで言うなんて失礼だ、って思う人もいると思うんです。

でも、僕が言ってるのは、その人の人間性のことじゃないんです。

面接で、当たりを引いた、ってことなんですよ。採用した僕の判断が、当たった。そういう意味です。そこは、勘違いしないでくださいね。

面接で分かるのは、半分って前に書きました。残りの半分は、働いてみないと分からない。その残りの半分が、片付けの時間の、あの一言で、ちょっと見えた気がしたんです。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも、書いておきます。

「店長に恋愛の話を振るなんて、ちょっとなれなれしくないですか?」

いや、うれしいんですよ、これが。

もちろん、仕事中にお客さんの前でやったら話は別です。でも、閉店後の片付けの時間に、ちょっと笑いながら。それくらいの距離が、ちょうどいいと思ってます。

「雑談くらいで、そんなに喜ぶことですか?」

喜ぶことです。

雑談って、相手に「この人になら話してもいい」と思ってもらえないと、出てこないので。仕事の指示は、言えば伝わる。でも雑談は、こっちから頼んでも出てこないんですよね。

片付けが終わった夜の厨房、作業台の上に明かりがひとつ点いている

話しかけてもらえる店に

まとめますね。

入ったばかりのスタッフが、向こうから雑談を振ってくれた。

答えの中身は、どうでもいい(クリスマスの思い出は、ないので)。大事なのは、話しかけてもらえたこと。それは、店に慣れて、働くのが楽しくなってきたサインなんだと思います。

こういう子は、大事にしたい。人としても、伸びてほしい。

面接で当たりを引くって、たぶん、こういうことなんですよね。