店のお金・仕組み

店を、自分の部屋にしない——「自分の好き」と「お客さんの好き」が重なる場所

試作用の小鍋と、小皿に盛られた塩の粒が並ぶ作業台

店をやってるとね、出てくるんですよ。**「あれ、やりたい」**が。

お酒を出したらいいんじゃないか。お酒を出すなら、おつまみも要るよね。みそラーメンもあったほうがいいかな。塩ラーメンも。夏になったら、冷やしも始めようか——。

ひとつ思いつくと、芋づる式に出てくる。たぶん、店をやってる人なら、みんな覚えがあると思うんです。

今日は、その「やりたい」との付き合い方の話です。

「みんなに合わせる」は分かる。でも

お客さんの声に合わせる。これは、もちろん大事です。分かってます。

でもね、全部に合わせていった先に、自分の信念って、残ってるのかなって。そこも同じくらい大事だと思うんですよ。

かといって、逆もダメなんです。お客さんが求めてもいないのに、「自分が好きだから」で始めても、うまくいかない。

じゃあ、どこがいいのか。

僕の答えは、これです。自分が好きで、お客さんも好き。その両方があるのが、いちばんいい。

自分の好みより、まず「見られるか」

ひとつ、店の外の話をさせてください。

このブログの記事を、歌にしてるんですよ。始めるとき、僕は自分の好きな曲調で作りたかった。でも、そこはぐっとこらえて、まず「どんな歌が見られているか」を調べてもらいました。

だって、自分の好みをやったところで、見られなければ意味がないので。

自分の好きは、大事です。でも、それを相手に押しつけても、届かない。届かないものは、どれだけ好きでも、ないのと同じなんですよね。

塩ラーメンを、作ってみた

で、店の話に戻ります。

正直に言うと、塩ラーメン、やってみたかったんです。

最初は、どうせやるなら塩から自分で作ろうと思って。海から海水を汲んできて、塩を作る。……で、調べてみたら、これがとんでもなく大変で(笑)。そこはさすがに諦めて。

それで、塩は買ってきて、自分で調合して、塩ラーメンを作ってみたんです。

できました。できたんですけど——いたって、普通でした。

もちろん、世の中には塩ラーメン用の素みたいなものもあるので、それを使えば、たぶんおいしいものはできると思います。でも、そこはね、僕の頑固なところが出ちゃって。

大きな寸胴で、濃い色の醤油スープが湯気を立てている

醤油を極めれば、誰にも負けない

僕の中には、ずっとこういう気持ちがあるんですよ。醤油ラーメンを極めちゃえば、たぶん誰にも負けない。

塩ラーメンを始めたら、喜んでくれるお客さんも、確かにいると思います。それは分かってる。

でも、塩を始めると、醤油の出る量が減って、分散するじゃないですか。

で、これは僕の感覚の話なんですけど、醤油って、多めに作ったほうが、いいものができるんですよ。量が減れば、醤油そのものが弱くなる。

だから、今も醤油一本でやってます。なぜ醤油一本なのか、は前にも書きましたけど、そこに「試してみて、やっぱりやめた」っていう一行が加わった感じですね。

「◯◯はないの?」と聞かれても

お客さんから、よく聞かれます。「あれはないの?」「これは置いてないの?」って。卓上の調味料だったり、ちょっとした一品だったり。

でも、置いてないんです。卓上の調味料も、ほとんど置いてない。

これはね、味の話というより、店のつくりの話なんです。

店を、自分の部屋にしない

店ってね、だんだん自分の部屋みたいにしたくなるんですよ。

あれも置きたい、これも置きたい。自分の好きなもの、自分の趣味のもの。毎日いる場所だから、なおさら。

でも僕は、それを全部、外してる。

何もない状態で、食べることに集中してもらう。 そういう店にしたいんです。

自分の好きなものを置いた店は、たぶん自分は居心地がいい。でも、お客さんにとっては、ただの「よその人の部屋」なんですよね。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも、書いておきます。

「お客さんが欲しがってるなら、出せばいいのでは?」

喜ぶ人がいるのは、分かってるんですよ。そこは本当に。

でも、全部に応えていくと、店はどんどん「いろいろある店」になっていく。いろいろあるけど、これといってない店。僕はそっちのほうが怖いんです。

「塩ラーメンの素を使えば、おいしくできるんですよね?」

たぶん、できると思う。

でも、それをやると、僕の中の「醤油を極める」がぶれる気がしてて。これは理屈じゃなくて、頑固さですね。自覚はあります。

「自分の好みを消したら、自分の店じゃなくなりませんか?」

消してるのは、部屋っぽさのほうなんです。好みそのものじゃない。

醤油は、僕の好きです。そして、お客さんも好きでいてくれる。そこには全力で自分の好きを出す。でも、壁に飾るものとか、卓上に並べるものとか、お客さんが別に求めていない「僕の好き」は、引っこめる。

好きを出す場所と、引っこめる場所を、分けてるって感じですかね。

何も置かれていない木のカウンターに、丼がひとつだけ置かれている

自分の好きと、お客さんの好きが重なるところ

まとめますね。

「あれやりたい」は、どんどん湧いてきます。それ自体は悪いことじゃない。

でも、自分だけが好きなものを始めても、お客さんには届かない。お客さんに合わせるだけだと、自分の信念がなくなる。

いちばんいいのは、自分が好きで、お客さんも好きなもの。そこに全部をかける。

うちの場合、それが醤油ラーメンでした。だから、それ以外は置かない。店を、自分の部屋にしない。

あなたの店の「自分も好きで、お客さんも好き」は、どこにありますか?