スタッフと働く

ミスしても謝らない部下に——店主が営業後に伝えた、漫画本のたとえ

湯気の立つスープの表面から、小さな網で刻みネギをすくう手元

ミスを指摘したら、「すみません」の前に「忘れました」が返ってきた。——注意する側って、ミスそのものより、そっちが引っかかったりしますよね。

今日は、その一言が出なかったスタッフに、営業後に伝えたことの話です。

この前、店でこんなことがありました。

ネギ抜きの注文が入ったんです。

うちの店では、ネギ抜きのときは食券に印をつける決まりになってます。そうしないと、作る側が分からないので。で、そのとき受けたスタッフが、その印を書き忘れた。

……と、ここで正直に言っておくと、僕も聞いてたんですよ。 聞いてたのに、僕も忘れてた(笑)。

で、いつもどおり作って、スープを張ったところで「あっ」と気づいて。網でネギをすくって、なんとかネギ抜きでお出しできました。セーフです。

返ってきたのは「書くの忘れました」

で、スタッフに「ネギ抜き、書いてなかったよね」って言ったんです。

返ってきた言葉が、これでした。

「ネギって書くの忘れました」

……うん。そうだよね。忘れたんだよね。それは分かってる。

でも、そうじゃないんですよ。まず「すみません」でしょ、って。

その場では言いませんでした。お客さんがいる前でやることでもないので。仕事が終わって、お客さんがいなくなってから、伝えました。

折れた漫画本の話

なんで「すみません」が先なのか。

これ、たとえ話のほうが分かりやすいと思うんですけど。

友達に、漫画本を貸したとするじゃないですか。で、返ってきて、ページをめくったら——角が、折れてる。

「あ、ここ折れてるね」って言ったとしますよね。

そのとき友達に「ああ、そこ折れてるね」って返されたら、どう思います?

別に、それだけで激怒したりはしないんですよ。漫画本の角くらいで。

でも、「ああ、折れてるね」じゃなくて、**「あ、ごめん」**でしょ。「ごめん、カバンに入れるときに曲がっちゃったかも」って言われたら、「あ、そっかそっか」で済むんです。普通は、許すじゃないですか。

その一言があるかないか。それだけなんですよ。

ページの角が一か所折れた本を、指先でなでる手元

人は、気持ちで動く

僕たち人間って、けっこう感情を優先して動くんですよね。

たとえば、大切な人から「本、貸して」って言われたら、喜んで貸すじゃないですか。でも、嫌いな人から同じことを言われたら……ちょっと嫌でしょ。本は同じなのに。

誰に貸すかで、気持ちが変わる。一言あるかないかでも、気持ちが変わる。

「ありがとう」とか「すみません」とかが言えない人を見ると、普通の感覚だと、違和感を感じるんですよ。だって、当たり前のことじゃないですか。

「親しき仲にも礼儀あり」って言葉、昔からありますよね。ありきたりの言葉です。でも、そんな言葉が今まで残ってるってことは——それだけ大事だったってことなんだと思うんです。軽く見ちゃいけない。

職場は、友達の集まりじゃない

で、ここからが、いちばん伝えたかったところです。

僕たちって、友達同士じゃないんですよ。

仕事仲間です。チームです。気の合う仲良し同士が集まってできたチームじゃなくて、「一緒にやろう、頑張ろうぜ」っていうところで集まってきてる。言ってしまえば、他人も他人なんです。

友達なら、「あいつ、そういうとこあるよね」で済むかもしれない。でも、他人同士はそうはいかない。他人同士だからこそ、些細な一言が、ものすごく大事になる。

それができないと、「なんだこいつ」ってなる。で、チームにそういう人が一人いるだけで、正直、みんなその人のことが嫌になっていく。

前に「嫌いは、いきなり咲かない」って記事を書きましたけど、まさにそれで。一回の「すみません」がないくらいで、嫌いにはならない。でも、それが積み重なると、ちゃんと嫌いになっていくんですよね。

「たかが、それぐらい」

ここ、ちょっと難しい話なんですけど。

たぶん、言われた側は思ってるんですよ。**「たかが、それぐらい」**って。ネギの印を書き忘れたくらいで。「すみません」を言わなかったくらいで。

でもね、こっち側からすると、**「たかが、それぐらいのことが、なんでできないの」**なんです。

同じ「たかが」なんですよ。でも、向きが逆なんです。

言われた側の「たかが」は、ミスを小さく見る「たかが」。こっちの「たかが」は、小さいことだからこそ、できて当たり前っていう「たかが」。

この差、伝わりますかね。

営業後、誰もいないカウンターにたたんで置かれた布巾

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも、書いておきます。

「店主も忘れてたんですよね?」

はい、忘れてました。そこは正直に。

だから、僕が伝えたのは「書き忘れたこと」じゃないんです。書き忘れは、僕もやってるので。伝えたのは、ミスしたあとの、最初の一言のほうです。

「一言くらいで、そんなに変わります?」

変わります。漫画本の角と同じで。「ごめん」があれば、「いいよいいよ」で終わる話なんですよ。ないから、引っかかる。ミスそのものより、引っかかるのはそっちなんです。

ちなみに、その日はもうひとつ、「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」は明るく、トーンを上げよう、っていう話もしました。これは前の記事で書いたのと同じ話なので、今回は省きますね。

間違えていい。でも、最初の一言は

まとめますね。

ミスは、誰でもする。 僕もする。今回だって、僕も忘れてた。

でも、ミスしたあとの最初の一言で、そのミスが「いいよいいよ」で終わるか、「なんだこいつ」で残るかが決まる。

「すみません」は、ありきたりの言葉です。親しき仲にも礼儀あり、くらい、ありきたりの。

でもね、他人同士で一緒に働くチームにとっては、たぶんそれが、いちばん大事な一言なんだと思います。