スタッフと働く

厳しい社員が嫌われて、緩い店長が好かれる店——やる気のない部下に、僕は熱量を合わせない

閉店後の居酒屋。誰もいない店内のカウンターに、グラスが並んでいる

知り合いから、ある居酒屋の話を聞いたんです。

そこには、若い店長と、50歳くらいの社員さんがいる。で、その社員さんが、めちゃくちゃ厳しいんだそうです。

逆に、店長は甘い。

アルバイトの子たちと一緒になって、「あの人、厳しいよね」なんて言ったりして。だから、みんな店長のことが好き。社員さんは、厳しいがゆえに、みんなから嫌われてる。

……っていう話で。

これ、聞いた瞬間に思ったんですよね。悪いのは、社員さんじゃなくて、たぶん店長のほうだなって。

悪いのは、厳しい人じゃない

もちろん、僕は話を聞いただけなんですけどね。現場も見てないし、店長と社員さんの関係も分からない。社員さんの言い方が、きつすぎるのかもしれない。

でも、ひとつだけ、はっきり言えることがあって。

上の人が、スタッフと一緒になって「あの人うるさいよね」って言っちゃダメなんですよ。

ラーメンでいうと、こうです。社員さんが、スープの味がぶれないように、塩加減をちゃんと守ってる。なのに、店長が「あの人うるさいよね」って言いながら、裏で水を足してる。

そりゃ、スープは薄くなりますよね。

僕が店長なら、たぶん、こう言います。

「お前ら、あの人の言うこと、ちゃんと聞けよ。それは、正しいんだよ」

厳しい役と、優しい役。分けること自体は、ありだと思うんです。でも、それは上の人が、ちゃんと厳しい側の肩を持ってる場合の話で。上が厳しい人を悪者にしたら、注意する人がいなくなる。注意する人がいなくなった店がどうなるかは、まあ、想像つくと思います。

「店長も、緩めたらいいんじゃないですか」

で、ここからが、うちの話です。

この話をしてくれた人が、こう続けたんですよ。

「緩めるとこは緩めて、締めるとこは締める。そういうやり方がいいんじゃないですか。店長も、そんなふうに接したらいいんじゃないですか」

というのも、うちにも、いるんです。スタッフ同士で話すときはテンションが上がるのに、仕事になるとテンションが下がる子が。前に書いた、人によって声を変える子です。

その子に合わせて、僕も緩めたら? っていう話で。

僕、そのとき、「ふん、そうか」って返しただけなんです。別に、そこで争うつもりもなかったので。

でも、正直に言うと、心の中では**「それは違う」**って思ってました。

体力には合わせる。熱量には合わせない

なんで違うと思ったか。

なんで、できないスタッフに合わせなきゃいけないんだ、って思ったんですよね。

そこに合わせたら、この先、緩いスタッフばっかりになりますよ。

だって、うちにはいるんです。「姉を超えたい」って言って入ってきた挑戦者とか、ちゃんとやるスタッフが。厳しいことを言っても、それを受け止めてくれる、いいスタッフが。

僕は、そっちに合わせたいんです。

ただ、ここは誤解されたくないので、ちゃんと書いておきますね。

全部を、できる人に合わせろって言ってるわけじゃなくて。

体力がある子は、6時間、7時間入ってもらう(もちろん休憩はあります)。体力がない子は、3時間、4時間に抑える。これは、人に合わせる。合わせるべきだと思ってて。

でも、仕事にかける熱量とか、思いとか。そこを、できないスタッフに合わせるのは、反対なんです。

ラーメン店の厨房に、大きさの違う丼が並んでいる

ラーメンでいうと、麺の量は、人に合わせていいんですよ。小盛りも大盛りもあっていい。

でも、スープの味は、誰が来ても薄めない。

薄めたら、その味が好きで来てくれてた人から、先にいなくなるので。店も、スタッフも、それは同じだと思ってます。

メモを取るようになった子

じゃあ、熱量の低い子は、もう見捨てるのか。

いや、そうじゃないんです。ここ、いちばん書きたかったところで。

前に、すごく厳しく注意した子がいたんですけど。正直、「なんだよ、こいつ。もう辞めてもらおうかな」とまで思った子です。

その子が、ある日から、メモを取るようになったんですよ。

ちょっとずつでも覚えようっていう姿勢を、見せてきた。

で、どうなったか。

どんどん成長して、今では、僕の懐刀みたいになってます。相棒、って言ってもいいくらい。いなくなられたら、困る。それくらいの存在で。

厨房の棚に、使い込まれた小さなメモ帳とボールペンが置いてある

だから、熱量は、最初から決まってるわけじゃないんです。上がる人は、上がる。

ただ、上がるきっかけは、僕が熱量を下げて寄っていくことじゃなかった。その子が、自分で一歩、こっちに寄ってきたことだったんですよね。メモ帳を持ってくるかどうかの話を前に書きましたけど、本当に、そこから変わるんです。

実は、いま少しだけ、嫌な予感がしてる

で、正直に書きます。

さっきの、仕事になるとテンションが下がる子。最近、僕、その子と雑談する気が、あんまり起きないんです。仕事だけの会話になってる。

これ、ちょっと嫌な予感がしてるんですよね。

僕が「もう、どうでもいいや」って思えるようになったら、たぶん、ダメなんです。

前にも一度、同じことがありました。注意しても変わらないスタッフと、距離を取ってしまった話です。あのときは、諦めた時点で、もう終わってた。

だから、どこかのタイミングで、仕事終わりに、ちゃんと言おうと思ってます。

あなたは、人によって熱量を出したり下げたりするのを、自分で決めてるよね。でも、仕事っていうのは、相手にいい思いをしてもらうことだから。好きな人にはちゃんと接して、それ以外には壁を作る。そのやり方だと、味方が少なくなって、敵がめちゃくちゃ多くなるよ、って。

これ、偉そうに言えることじゃないんです。

僕も、そうだったので。

好きな人には、とことん好き。でも、それ以外の人は、バーンと跳ねのける。若いころの僕は、そんな感じで。

で、どうなったか。シンプルに、敵がめちゃくちゃ多くなった。生きづらくなった。

だから、言わなきゃいけないと思ってるんです。熱量を合わせないのと、見捨てるのは、違うので。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも、書いておきます。

「厳しくしたら、嫌われるだけじゃないですか?」

嫌われるかもしれません。嫌われてもいいかな、って前にも書きましたし。

それに、若いころの僕にも、厳しい先輩がいたんです。そのときは、正直、分からなかった。でも今思うと、「ああ、あの人の言ってたこと、そうだよな」って納得することが、けっこうあるんですよ。

その時は分からない。時間が経ってから、分かる。

厳しさって、たぶん、そういうものなんですよね。だから、あの居酒屋の社員さんも、今は嫌われてるかもしれないけど、何年かして「あの人が正しかった」って思い出す子は、きっといると思います。

「緩めるとこは緩めて、締めるとこは締める。それも正しいのでは?」

それは、僕もそう思うんですよ。休憩中は雑談に乗る。仕事中は、ちゃんと言う。言い方も、人によって変える。

ただ、緩めていいのは、言い方や場面のほうなんです。仕事にかける熱量、つまり店の基準まで緩めたら、それはもう「緩める」じゃなくて「下げる」なので。

営業を終えたラーメン店の入口に、外したのれんが立てかけてある

スープは、薄めない

まとめますね。

厳しい社員が嫌われて、緩い店長が好かれる店。悪いのは、たぶん店長のほうです。上の人がやるべきことは、厳しい人を悪者にすることじゃなくて、「それは正しいんだよ」って肩を持つこと。

うちの店では、体力には合わせます。でも、熱量には合わせない。合わせるのは、ちゃんとやるスタッフの側です。

それでも、熱量の低い子を見捨てるわけじゃない。メモを取るようになった子が、相棒になったみたいに。自分から一歩寄ってきた人は、ちゃんと待ちます。

麺の量は、人に合わせる。

スープの味は、誰が来ても薄めない。

僕は、そういう店でいたいと思ってます。