店主として続ける

「お客さんが来たら、儲かるんでしょ?」——飲食店経営者の仕事は、閉店して帰ってからが本番です

深夜の台所のテーブルに、電卓とノートと書類の束が置かれ、卓上ライトだけが点いている

店を閉めて、家に帰る。

お風呂に入って、ご飯を食べて。

で、そこから。

「さて、どうしようか」って、考え始めるんです。気づいたら、夜中の2時とか3時。これ、たまにじゃないんですよ。わりと、いつもの話で。

今日は、その「お客さんからは見えてない半分」の話をします。経営してる人なら、たぶん全員うなずくと思います。そうじゃない人には、ちょっと意外かもしれません。

「お客さんが来たら、儲かるんでしょ?」

外から見たラーメン屋って、たぶん、こんな感じだと思うんですよ。

朝、仕込みをして。昼と夜、ラーメンを作って。片付けして、終わり。

で、お客さんがたくさん来たら、儲かるんでしょ? みたいな。

……いやいやいや。違うんですよ。

帰ってから、また本番があるんです。

営業時間って、仕事の半分なんですよね。お客さんに見えてるのは、そこだけで。残りの半分は、シャッターを下ろしたあとに始まる。しかも、こっちの半分は誰も見てないから、誰にも褒められない(笑)。

営業中の厨房の作業台に、湯気の立つラーメンの丼が二つ並んでいる

帰ってからの「本番」で、何をしてるか

じゃあ、その半分で何をしてるのか。ざっと並べると、こうなります。

種類 やっていること
お金のこと 給料計算、売上の計算、税金の計算、税理士さんとの相談
人のこと 求人、シフト作り、仕事の教え方、スタッフ同士の揉め事の仲裁
店のこと 壊れた物の買い直し、消耗品の補充、定休日の決め方、来月からの経営の方針
決まりごと 就業規則、入社のときの書類、店のルール作り

表にすると、なんかスッキリして見えますけどね。

実際は、これが一個ずつ順番に来てくれないんですよ。

給料計算してる途中で、「あ、来月のシフトどうしよう」ってなる。シフト考えてたら、「そういえば、あの人が辞めるなら求人出さなきゃ」ってなる。求人のこと考えてたら、「あ、厨房のあれ、壊れかけてたな」って思い出す。

全部、頭の中で、ぐるぐる回ってるんです。

「どうやったら、うまく回るか」をずっと考えてる

で、作業そのものより、しんどいのは、こっちかもしれません。

どうやったら、スタッフに気持ちよく働いてもらえるか。

どうやって、仕事を教えようか。

どうやったら、物事が円滑に進むか。

これ、答えがないんですよね。給料計算は、終わったら終わりです。でも、こっちは終わりがない。人が変われば、やり方も変わるので。

だから、お風呂に入ってても、ご飯を食べてても、どこかで考えてる。僕、たぶん、営業時間より、こっちの時間のほうが長いです。

いちばん重いのは、人のこと

その中でも、いちばん重いのは、やっぱり人のことです。

スタッフ同士で揉め事が起きたら、間に入らなきゃいけない。どっちの話も聞いて、どっちの顔も立てて、それでいて店は回さなきゃいけない。

それから、これは本当にリアルな話なんですけど。

ひとりの困ったスタッフが入るだけで、店の中がめちゃくちゃになることがあるんです。

周りの空気が悪くなる。注意しても、なかなか変わらない。そうすると、何が起きるか。

いいスタッフのほうが、先に辞めちゃうんですよ。

ここ、意外と知られてないと思います。困ってるのは、店主だけじゃない。真面目に働いてる人ほど、しんどくなって、離れていってしまう。

採用は確率論、という話を前に書きましたけど、「外れを引かない」ことが大事なのは、こういう理由なんです。たったひとりで、店の中身が変わってしまうので。

夜のテーブルの上で、クリップで留めた書類の束をペンを持った手がめくっている

だから、決まりごとを作る

じゃあ、どうするか。

就業規則を作る。入社のときの書類を作る。店のルールを、ちゃんと紙にする。

地味ですよね。ラーメンとは、なんの関係もない。

でも、これがないと、何か起きたときに、店もスタッフも守れないんですよ。「言った」「言ってない」になる。そうなると、いちばん損をするのは、ルールを守って真面目に働いてる人なんです。

だから、決まりごとは、困った人を縛るためというより、いいスタッフを守るために作ってるんだと、僕は思ってます。

で、これも、夜中に作るんですよね。営業中には、作れないので。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも、書いておきます。

「それ、自分で選んだ道でしょ?」

その通りです。だから、これは愚痴じゃないんです。誰かに代わってほしいとも、思ってません。

ただ、外から見えてる姿だけで「楽そう」「儲かってそう」って思われると、ちょっとだけ、言いたくなるんですよね。半分しか見えてないですよ、って。

「じゃあ、飲食店の開業なんて、やめとけってこと?」

いや、そうじゃないです。

ただ、「ラーメンが作れれば、店はやれる」と思って始めると、たぶん、あとで驚きます。ラーメンを作るのは、仕事の半分。もう半分は、お金と、人と、決まりごとです。その半分ごと引き受ける覚悟があるなら、やったらいいと思います。 僕は、やってよかったと思ってるので。

夜明け前の薄暗い厨房で、火の入ったばかりの寸胴から湯気が立ち上り始めている

目に見えてるものが、全部じゃない

まとめますね。

お客さんに見えている営業時間は、経営者の仕事の半分です。 残りの半分は、閉店して、家に帰って、お風呂とご飯を済ませたあとに始まる。

お金の計算をして、人のことを考えて、壊れた物を買い直して、決まりごとを作る。いちばん重いのは人のことで、ひとりで店の中が変わってしまうこともある。だから、いいスタッフを守るための決まりごとを、夜中に作ってる。

店主が倒れたら営業停止、という話では「営業だけが仕事じゃない」と書きましたけど、今日の話も、根っこは同じです。

目に見えてるものが、全部じゃない。

だから、甘く見ないでくださいね、って話でした。

……さて。この記事を書き終わったら、僕もそろそろ、来月のシフトを考えます。