ラーメン屋の開業は「やめとけ」?——止められて独立した店主が、今はスタッフに「やめとけ」と言う理由
2026-10-22

「ラーメン屋の開業は、やめとけ」
そう言われて、迷ってる人。たぶん、この記事にたどり着いたんじゃないかな、と思って。
先に、結論を言いますね。
その「やめとけ」は、半分は本当です。でも、半分は、言ってる人の都合です。
で、もうひとつ。僕は今、自分の店のスタッフが「独立したい」と言ってきたら、最初に**「やめとけ」**って言います。
……矛盾してますよね(笑)。今日は、その理由を書こうと思って。
地方で小さなラーメン屋をやっている店主です。雇われで長く働いて、そこから独立して。止められた側と、止める側。両方やってきた人間として、正直に話します。
僕も、「やめとけ」と言われ続けた
開業する前、僕も言われたんですよ。
誰にだと思います? 当時、僕を雇ってくれていた側の人です。
「開業なんて、しねえほうがいいよ。雇われてたほうが楽だよ」
これを、常々言われてて。口ぐせみたいに、こうも言ってましたね。
「雇われで、毎月決まった給料もらってさ。ボーナスも、たまには出てさ。そっちのほうが安定してて、いいよな」
僕、それを聞いて、半分は「ああ、そうか。そうなのか」って思ったんです。
でも、もう半分は、**「なんか、うまく丸め込まれてる気もするんだよな」**って思ってたんですよね。
なんで、「やめとけ」と言うのか
今になって、分かるんですよね。あれ、なんで言ってたのか。
簡単なんですよ。やめてほしくないから。
だって、僕が辞めたら、その分、どでかい穴が開くじゃないですか。そうしたら、上の人が自分で現場に立たなきゃいけない。現場に立ったら、店を増やすどころじゃなくなる。自分の仕事が、めちゃくちゃ増える。
しかも、辞めた人間が近くで店を出したら、ライバルになる。
だから、「やめとけ」って言う。
……って書くと、その人が悪い人みたいに聞こえますよね。でも、そうじゃないんです。
僕も今、人を雇う側になって、そう言いたくなる気持ちが、すごく分かるんですよ。いいスタッフに辞められたら、困る。それは、雇う側に立ったら、誰だってそうなんです。
だから、「やめとけ」と言われたら、ひとつだけ見てほしいんです。
その「やめとけ」は、誰の口から出てるか。
あなたが辞めたら困る人が言ってるのか。それとも、あなたが辞めても何も困らない人が言ってるのか。中身が同じ「やめとけ」でも、重さがまるで違うんですよね。
雇われ時代から独立するまでの話は、前に書きました。今日は、その先。開業してから分かった、現実のほうです。
開業して分かった、3つの誤算
税金は、儲かってなくても来る
まず、お金の話。
一番びっくりしたのは、税金の重さ。
消費税って、利益が残っても残らなくても、売上にかかってくるんですよ。儲かってない月でも、関係ない。
さらに、予定納税っていうのがあって。前の年の分をもとに、先にドカンと払うやつです。これが、一括で、ドカンと来る。
保険も、めちゃくちゃ高いです。雇われてたころは、会社が半分持ってくれてたんだなって、独立してから知りました。
しかも、売上が上がれば上がるほど、税金も保険料も、どんどん、どんどん上がっていく。頑張って売上を伸ばしたら、そのぶん出ていくお金も増える。これは正直、びっくりしましたね。
だから、言い切ります。お金の管理をちゃんとしないと、マジで火の車になります。 売上があることと、手元にお金が残ることは、まったく別の話なんですよ。

同じ味を出しても、同じだけお客さんは来ない
これが、たぶん一番大きな誤算で。
僕が雇われてた店は、土日になると、お客さんがひっきりなしに来る店だったんです。何百人っていう単位で。
だから、思ってたんですよ。同じ味を出せば、同じだけお客さんは来るって。
味も、商品も、サービスも、雰囲気も、値段も。働いてた店に近いもの、同じくらいのものを出せば、土日はひっきりなしに来るだろう、と。
現実は、違いました。
お客さんは、そこまで来なかったんですよ。
何が違ったかというと、場所です。同じ味でも、場所が変われば、来るお客さんの数は同じにならない。これ、雇われてるときは、まったく見えてなかったんですよね。お客さんがたくさん来るのは、自分の腕だけのおかげじゃなかった。
人の扱い方は、アート
もうひとつは、人のこと。
これは、もう、アートですね。正解がない。人が変われば、やり方も変わる。
人のことは、閉店してからが本番、という話にも書いたので、ここでは短くしておきます。ただ、開業前に想像していたより、何倍も重かった。それだけは言っておきます。
一番苦しかったのは、誰も来ない1時間
じゃあ、お金で一番苦しかったのは、いつか。
シンプルです。
店を開けて、1時間、お客さんが一人も来ない。
でも、バイトはいる。電気はついてる。ガスも、水道も、エアコンも、全部ついてる。お金は、どんどん出ていく。
なのに、お客さんは一人も来ない。
ってことは、マイナスじゃないですか。マイナスを、垂れ流してる。
これ、精神的に、けっこう来るんですよ。売上が少ない日より、何倍もきつい。時計の針が進むたびに、お金が減っていくのが見えるので。

開業してから知る苦しさって、たぶん、こういうものなんですよ。帳簿の上の赤字より、目の前の空っぽの客席のほうが、ずっと重い。
やめたほうがいい人は、「儲けたい」が一番に来ている人
じゃあ、開業をやめたほうがいいのは、どんな人か。
僕の答えは、ひとつです。
「儲けたい」が、一番に来ている人。
違うんですよ。一番前に来なきゃいけないのは、**「お客さんを喜ばせたい」「楽しませたい」**っていう思いなんです。
儲けは、あとからついてくるものです。その前に、大事なものがある。順番が逆だと、たぶん、続かないと思います。
だって、さっきの「誰も来ない1時間」。あれを、「儲からない」だけで耐えるのは、無理なんですよ。「来てくれたお客さんを、喜ばせたい」があるから、次の1時間も、のれんを出していられる。
接客の極意は、お客さんを幸せにしたい、これだけと前に書きましたけど、開業も、根っこは同じだと思ってます。
今、スタッフに「独立したい」と言われたら
さて、冒頭の話です。
今、うちの店のスタッフが「いつか独立したいんです」と言ってきたら。
僕は、最初に「やめとけ」と言います。
しかも、あえて、ちょっとつらめに言います。
「不安定だよ。お客さんが来るかどうか、分からないよ。支払いもすごいよ。物の値段は、どんどん上がっていくから。店の内装をいじるにしても、昔とは比べものにならないくらい、お金がかかるよ」
で、そのあとに、こう聞くんです。
「今の話聞いて、どう思った?」
それで、「ああ、難しいな」と思うなら、やめなさい。
それでも「やりたい」と言うなら、やりなさい。
これが、僕の「やめとけ」です。
雇われ時代に聞いた「やめとけ」と、言葉は同じなんですけどね。僕のは、引き止めるための「やめとけ」じゃないんです。**本気かどうかを、本人に確かめてもらうための「やめとけ」**なんですよ。決めるのは、言われた本人なので。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね
自分へのツッコミも、書いておきます。
「で、結局、開業はやめたほうがいいんですか?」
それは、僕には決められないんですよね。
ただ、さっきのつらめの話を読んで、それでも「やりたい」と思ったなら、たぶん、もう答えは出てるんだと思います。「難しいな」と思ったなら、それも、ちゃんとした答えです。
「店主は、開業して後悔してないんですか?」
してないです。
開業前の自分に、一言だけ言えるなら、こう言います。
「もっと早くやれよ」
どうせ、同じように苦しい思いをするんですよ。遅くやっても、早くやっても。だったら、早いほうがいい。
「やめとけって言ってくれる人は、全員、自分の都合で言ってるんですか?」
いや、そんなことはなくて。本気で心配して言ってくれる人も、もちろんいます。
だから、「誰が言ってるか」と一緒に、**「何を言ってるか」**も聞いてほしいんです。税金のこと、場所のこと、誰も来ない時間のこと。具体的な話をしてくれる「やめとけ」は、聞く価値があります。中身のない「やめとけ」は、たぶん、その人の都合です。
「やめとけ」と言われたら、自分に聞いてほしいこと
まとめますね。
ラーメン屋の開業は、やめとけ。その言葉は、半分は本当です。税金は儲かってなくても来るし、同じ味を出しても同じだけお客さんは来ないし、誰も来ない1時間は、本当に苦しい。
でも、半分は、言ってる人の都合です。雇う側に立てば、いい人に辞められたくないのは、当たり前なので。
だから、「やめとけ」と言われたら、自分にこう聞いてみてください。
「今の話を聞いて、どう思った?」
「難しいな」と思ったなら、やめていい。
それでも「やりたい」なら、やったらいい。そして、やるなら、一番前に「お客さんを喜ばせたい」を置いてください。儲けは、そのあとから、ちゃんとついてきますから。