スタッフと働く

仕事を任せられる人の特徴——店主が休憩中に本を読めた夜、厨房から聞こえてきた「音」の話

夜、お客さんのいないラーメン店で、テーブルの調味料入れを布巾で拭いている手元

この前、夜営業がすごく静かな日があったんですよ。

昼は忙しかったんですけどね。夜の5時から7時の2時間で、来てくれたお客さんは、3人だけ。

で、僕、その2時間、ほとんど休憩してました。

本を読んだりして、ゆっくりと。

なんでそんなことができたかというと、その日のスタッフが、**「見てないところでも、あの人ならちゃんとやってくれるだろうな」**と思える人だったからなんです。

実は、出勤前にシフトを見たときから、ちょっとほっとしてたんですよね。「あ、今日、あの人来るんだ。よかった」って。

背中を任せられる安心感って、やっぱり強いんですよ。

今日は、この「任せられる人」の話をしますね。

休憩から戻ると、音でわかる

その2時間、スタッフが何をしていたか。

テーブルを拭いたり、卓上の調味料入れを拭いたり。身の回りの、目につくところを、きれいにしてたんです。

僕が頼んだわけじゃないんですよ。

で、面白いのが、休憩から戻っても、パッと見て分かるようなことって、基本的にはないんです。テーブルがピカピカに光ってるわけでもないし。

でもね、音で分かるんですよ。

奥にいても、作業してる音が聞こえてくる。「あ、なんかやってるな」って。

お客さんがいない時間に、何もしないで立ってる人と、手を動かしてる人。その違いは、店主には、ちゃんと聞こえてるんです。

任せられる人の特徴① 見てないときの動きは、見てるときに出てる

じゃあ、任せられる人と、任せられない人。何が違うのか。

僕の考えは、けっこうシンプルで。

人って、見られてないと、動きが落ちるんですよ。それは、ある程度しょうがない。

だから僕は、こう見積もってます。

店主が見てるときの動き 見てないときの動き(僕の見立て)
10 6〜7くらいに落ちる
5〜6 2〜3くらいまで落ちる

普段からテキパキしてない人は、見てないときは、もっとテキパキしない。

逆に言うと、見てないときの動きは、見てるときにもう出てるんですよね。目の前で10の動きをしてる人だから、目を離しても、店が回る。

「任せられるかどうか」は、任せる前から、だいたい分かってるんです。

任せられる人の特徴② 時給が変わらないのに、「美味しかった」を喜べる

もうひとつ、普段の会話の中にも出るんですよ。

お客さんが「美味しかったです」って言って帰っていくじゃないですか。そのあと僕が、「あの人、すげえ美味しかったって言ってったね」って言う。

そしたら、そのスタッフが、こう言ったんです。

「私、それ聞くと、嬉しくなるんです」

これ、聞いたとき、ああ、方向は一緒なんだなって思ったんですよね。

だって、お客さんが美味しいって言っても、スタッフの時給は変わらないんですよ。上がるわけでもない。

それでも、嬉しいって言える。

その人は盛り付けを担当してるので、自分の仕事が評価されたと思えたのか。自分が働いてる店のラーメンを美味しいと言ってもらえたのが嬉しいのか。そこは、正直分かりません。

でも、同じ方向を向けてる。それが、僕は嬉しいんです。

任せられるかどうかって、こういう何気ない言葉の中に、潜んでるんですよね。忙しい日を「暇な方がよかった」で終わらせない人の話とも、根っこは同じだと思います。

ラーメン店の厨房で、丼にチャーシューとネギを丁寧に盛り付けている手元

任せられる人の特徴③ かゆいところに、手が届く

逆に、「この人には、まだ任せられないな」と思うのは、どんなときか。

ひとつ、実際にあった話をしますね。

以前、スタッフがお客さんにスープをかけてしまったことがあったんです。

で、そのスタッフは、僕を呼ばずに、自分で対応したんですよ。しかも、「すいません」が、気持ちの入ってない一言で終わってた。

うちでは、お客さんにスープをかけてしまったら、店主が謝りに行くんです。それが当たり前だと思ってるので。

あとで、そのことを話しました。「スープをかけちゃったんだったら、店主が謝りに行かないとダメだよ」って。

こういうときに、ちゃんと店主を呼べる。お客さんへの一言が、ちゃんと出る。

かゆいところに、手が届く。

そういうスタッフには、任せられるんですよね。「あの人だったら、やってくれるよな」って思える。

任せるのと、丸投げの違い

ここからは、任せる側の話です。

正直に言うと、昔の僕は、人に任せるのが結構苦手でした。

「自分でやらないと」って思ってたんですよね。でも、それだと、自分がいっぱいいっぱいになる。手が空かない。

今は、こう思ってます。

出来が1割、2割落ちても、やらせないとダメ。

儲かる店と儲からない店の違いで、「自分でいっぱい汗をかくかどうか」と書きましたけど、全部を自分で抱えるのとは、また別の話なんですよね。任せて空いた手で、次のことをやる。そのためにも、任せられる人は必要なんです。

じゃあ、任せると、丸投げは、何が違うのか。

僕の中では、最終チェックをするかどうかです。

任せても、最後は自分の目で見る。それをやめたら、丸投げ。

あと、任せるときに気をつけてるのは、あえて何も言わないことです。普段の動きを見てて、言わなくても気づけるかどうか。そこを、黙って見てるんです。

厨房の奥の小さな休憩机に、読みかけの文庫本と湯呑みが置かれている

「安心して任せられる」と伝えたら

その夜のスタッフには、「安心して任せられる」って、伝えたんですよ。

そしたら、ちょっと口元が緩んだ笑顔になってて。

それって、その人の仕事を認めるっていうか、たたえるってことじゃないですか。僕は、それって人間性を褒められたのに近いと思ってるんですよね。

だから、やっぱり嬉しいんだと思います。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも、書いておきます。

「スタッフに働かせて、店主は本を読んでるって、どうなんですか?」

これ、言われると思いました(笑)。

でも、お客さんが3人の2時間、僕がずっと気を張って立ってても、売上は変わらないんですよ。休めるときに休んでおく。それができるのは、任せられる人がいるからです。

店主が倒れたら、店は止まる。だからこそ、休める時間があるのは、店にとっても大事なんです。

「見てないときに動きが落ちるのは、誰でも同じでは?」

はい、同じです。僕だって、たぶん落ちます。

だから、落ちる前提で考えてるんです。見てるときが10の人なら、落ちても6〜7。そこが、任せられるかどうかの分かれ目なんですよね。

「任せて、失敗されたらどうするんですか?」

だから、最終チェックは手放さないんです。そこを手放したら、丸投げになるので。

それに、失敗したときに、正直に言ってくれる人なら、ちゃんと取り返せるんですよ。

信頼されたい人へ

最後に、これからバイトを始める人や、職場で信頼されたいと思ってる人に、一言だけ。

誠実でなければならない。

その場しのぎでやっても、ダメなんです。嘘をついても、結局わかるので。

「ここ、失敗しました」「これ、うまくいきませんでした」。そういうところを、正直に言う。

それができる人に、店主は、背中を任せるんだと思います。

夜、小さなラーメン店ののれんの奥から温かい明かりがこぼれている

背中を任せられる人は、普段から分かる

まとめますね。

夜の2時間、お客さんは3人。その間、僕が本を読んで休めたのは、見てないところでもちゃんとやってくれる、と思えるスタッフがいたからです。

任せられる人の特徴は、見てないときの動きが、見てるときにもう出ていること。時給が変わらないのに、「美味しかった」を喜べること。かゆいところに、手が届くこと。

任せる側は、出来が1割、2割落ちても任せる。ただし、最終チェックは手放さない。それが、丸投げとの違いです。

そして、信頼されたい人に言いたいのは、ひとつだけ。誠実であること。

シフトを見て「あ、今日、あの人だ。よかった」と思える人がいるのは、店主にとって、本当にありがたいことなんですよね。

この話は、歌にもなっています

お客さん3人の夜、店主は裏で本を読んでいた。

▶ YouTubeで聴く:「音で わかる」— 現場のうた