「夫婦経営って、ケンカしません?」——一番背中を任せられる人が、そばにいる話

開店前の厨房に、二人並んで立つ後ろ姿

今日はね、嫁の話をします。

前に、辞めていくスタッフに嫁がギフトを渡した話を書いたら、あの記事の本当の主役は嫁だったわけですけど(笑)、ちゃんと一本書いたことがなかったので。

「ずっと一緒で、嫌になりません?」

夫婦で店をやってるって言うとね、だいたい聞かれるんですよ。

「ケンカしません?」「仕事も家も一緒って、嫌になりません?」

実際、夫婦経営でうまくいかなくなった話って、よく聞くんです。だから聞かれるのも分かる。

でも、正直に答えますね。

全然、嫌じゃないです。むしろ、落ち着くんですよ。

だってね——自分の一番、背中を任せられる人なんですから。その人がそばにいて嫌なわけがない、っていうのが僕の実感です。

役割分担は、シンプルに決まりました

うちの分担はこうです。

僕は、店を運転して、売上を作る。嫁は、シフトと給料計算と、裏方。

どうやって決めたか?——話し合いすら、ほぼしてません。

僕がラーメンを作れて、嫁は作れない。 それだけです(笑)

だから開店のときから、僕が厨房、嫁が接客。そこから始まって、今の形に落ち着きました。たぶん、夫婦でやってるお店って、どこも似たような決まり方なんじゃないですかね。

嫁は今、あえて店に出てません

ここ、ちょっと面白いところなんですけど。

今、嫁はほとんど店に出てないんですよ。あえて、です。

店はスタッフで回すようにして、嫁には裏方と、子どもを見てもらう。オープン当初はずっと店に入ってたんですけど、少しずつ減らして、裏方に回ってもらいました。

じゃあ完全に引退かというと、違うんです。

最終兵器なんですよ。

どうしても人が足りない、店が回らない——そういうときに、出てきてもらう。で、実際、出てきてもらうと締まるんです。いないと困る人が、温存されてるっていうのが、うちの店の隠れた安心材料です。

ケンカは、しません。でも意見は割れます

さて、いちばん聞かれるやつに答えますね。

ケンカは、しません。でも、意見が違うことは、もちろんあります。

たとえば接客。どこまでやるか。

僕は「ここまでやってれば、OKだよ」。嫁は「いや、もっとやるべきだ」。——割れるわけですよ。

でもね、これ、ケンカにならないんです。変な雰囲気にもならない。

なんでか、考えたことがあって。

主語が「店」だからなんですよ。

「俺が正しい」「あなたが間違ってる」の話じゃなくて、「この店は、どうやるのが一番いいか」の話をしてる。勝ち負けを決めてるんじゃなくて、よりいい方法を二人で探してる。——それは、ケンカじゃなくて議論なんですよね。

主語が「俺」と「お前」になった瞬間、議論はケンカになります。主語を「店」に置いてる限り、割れた意見はぜんぶ材料です。

家のテーブルの上の、電卓とノートと湯呑み

人生で一番きつかった時期を、二人で越えました

創業期の話も、しておきますね。

オープンしたては、ご祝儀相場というか、お客さんがどっと来るんですよ。ありがたい話なんですけど、体制ができてないところに波が来るので——

僕も嫁も、睡眠時間がありませんでした。

僕は夜中の1時に帰ってきて、朝7時にはまた出ていく。嫁もそこまでじゃないけど、帰りが22時。まだ子どもがいなかったから全部を店に注げたんですけど、それにしても、です。

寝る時間がないのって、本当にしんどいんですよ。 あれが、うちの家庭のいちばんきつかった時期です。

でもね——あれを二人で乗り越えられたのが、でかかった。

「うちら、割と何とかなるな」っていう自信になったんです。あの時期を越えた二人なら、この先の大抵のことは越えられる。そういう土台が、あのしんどさの下に埋まってました。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも書いておきます。

「それ、ただののろけですよね?」

——はい(笑)。

否定しません。でも、ひとつだけ持って帰ってほしいものがあるんですよ。

「主語を店にする」——これです。夫婦経営で揉めてる方がいたら、意見が割れたとき、主語を確認してみてください。「俺は/あなたは」で話してるか、「うちの店は」で話してるか。それだけで、同じ議論が別物になるので。

「奥さんを裏方に下げたの、もったいなくないですか?」

最終兵器はね、温存するから兵器なんですよ。

それに、シフトと給料計算って、裏方どころか店の心臓部です。あれを全部任せられるから、僕は運転と売上に集中できる。下げたんじゃなくて、いちばん任せられる場所に置いたんです。

「背中を任せるって、具体的にどういうことですか?」

前に書いた話が、そのまま答えです。

辞めていくスタッフに、僕は「ありがとうございました」を絞り出すのがやっとだった。嫁は15分話して、ギフトに手紙を付けた。

僕にできないことを、僕より上手にやる人が、同じ店を見てる。——それが「背中を任せる」ってことだと思ってます。

夜道を並んで歩く、二人の後ろ姿

今日もシフト表は嫁が作って、僕はスープを炊く

まとめますね。

夫婦経営がうまくいくコツを聞かれたら、僕はたぶん、こう答えます。

意見が割れたら、主語を「店」にすること。 そして、相手のできることを、心から任せること。

ずっと一緒で嫌にならないの?って聞かれたら、これからもこう答えます。

むしろ、落ち着くんですよ。

一番きつかった時期を隣で越えた人が、今日も隣にいる。店には出てないけど、シフト表という形で、毎日店の中にいる。

——今日もシフト表は嫁が作って、僕はスープを炊いてます。それがうちの店です。