「店長、これ間違えてますよ」と言われたとき——僕が、ちょっと大げさに喜ぶ理由

厨房のまな板の上に、チャーシューの薄切りが並んでいる

今日はね、僕のミスの話をします。

スタッフのミスの話は、今までさんざん書いてきました。泣かせちゃった話まで書いた。だったら自分の番も書かないと、フェアじゃないですよね。

店長だって、普通にミスします

先に言っておきますね。僕、普通にミスしますよ。

たとえば、チャーシュー。5枚用意しなきゃいけないところ、4枚しか置いてなかったりする。

自分が準備しなきゃいけないものを、準備し忘れてたりもする。

どれも、何でもないような小さいやつです。でもね、小さいやつだからこそ、気づかれにくいんですよ。

「店長、これ間違えてますよ」

で、そういうとき、スタッフに言われるんです。

「店長、これ間違えてますよ」

——さて。ここで店長がどんな顔をするか。実はこれ、店の空気を決めてると思うんですよ。

僕はこう返します。

「ありがとう!……え、なんで気づいたの?」

ちょっとね、大げさに言います。 「気づいてくれてありがとう」って。

……はい。前に「15分残ってくれたスタッフに、ありがとうを大げさに言う」って書きました。同じ技です。 僕、これしか持ってないのかもしれない(笑)

なんで大げさに言うか

理由は単純で。

そうすると、次も言いやすくなるじゃないですか。

「言ったら喜ばれた」っていう経験が一回あるとね、スタッフは次も言ってくれるんですよ。「言ったら気まずくなった」が一回あると、もう言ってくれない。

たった一回の反応で、どっちにも転ぶ。だから、言われたときの返事が勝負なんです。

隠したら、どうなるか

逆を考えてみますね。

僕がミスを隠したり、指摘されてムッとしたりしたら、どうなるか。

これね——スタッフは、気づいてると思うんですよ。

店長がミスってることに、気づいてる。でも、言いにくい。**「あ、ミスってるな。……でも、言いにくいな」**っていう空気が、できあがっていく。

その空気、僕がスタッフだったら、絶対イヤです。見えてるのに言えないって、けっこうなストレスですから。

だから僕は、言いやすい雰囲気づくりを、わりと意識してやってます。

だってさ、言ってくれたほうが、助かるじゃん。

厨房の作業台で、一人がもう一人の手元を指さして何かを伝えている

お客さんに届く前なら、まだミスじゃない

ここ、大事なところなので、ちゃんと書きますね。

チャーシューが4枚のまま、お客さんに出ちゃったら——これは、ミスです。取り返しがつかない。

でも、出す前にスタッフが「ばっ」と言ってくれたら?すぐ直せる。 お客さんは何も知らないまま、ちゃんとした一杯を食べて帰る。

つまりね。

先に言ってもらえたら、ミスは未然に防げるんですよ。

僕への指摘って、僕のためじゃないんです。お客さんを守ってるんですよ。ここが今日の話の芯です。

裸の王様の、いちばん怖いところ

で、誰も言ってくれなくなったら、どうなるか。

裸の王様ですよね。ミスしてるのに、誰も言わない。本人だけが知らない。

……ここでね、「言ってもらえなくて困った経験はありますか?」って聞かれたんですけど、僕の答え、こうでした。

「いや、言われないから、分からないんですよ」(笑)

笑い話みたいですけど、これがいちばん怖いところなんです。

言ってもらえなかったミスは、なかったことになってるんじゃなくて、僕が知らないだけ。 もしかしたら今までに、いくつもあったのかもしれない。分からない。確かめようがない。

だから僕にできるのは、ひとつだけなんですよ。言われたときに、ちゃんと喜ぶこと。 それしか、防ぎようがない。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも書いておきます。

「店長の威厳、なくなりません?」

——うーん。ミスを隠して保つ威厳って、何なんですかね。

僕はむしろ逆だと思ってて。ミスを認めて「ありがとう」って言える店長のほうが、たぶん信用されるんですよ。隠す店長は、隠してることごと見抜かれてます。スタッフって、そういうの見てますから。

「スタッフのミスには注意するのに、自分は喜ぶだけ?ずるくない?」

これはね、ちゃんと答えておきたいです。

僕、スタッフのミスも指摘します。今までの記事のとおりです。で、自分のミスも指摘してもらう。 つまり——お互い様にしてるんですよ。

「俺も言うから、俺にも言って」。この形になってると、注意って上から下への攻撃じゃなくて、店の当たり前になるんです。僕だけが言う側だったら、それはただの説教の店です。

「それでも言えない子は、言えないですよね?」

そうなんですよ。新人の子とかは、特に。

「店長に指摘なんて、恐れ多い」って感覚、あると思います。だからこそ、先輩スタッフが僕に指摘してる場面を見せるのが効くんですよね。「あ、この店、言っていいんだ」って分かるので。

雰囲気って、言葉で「言っていいよ」って言うより、実際の場面を見せるほうが、伝わるんですよ。

開店前の厨房。トッピングの容器がきれいに並んだ準備台

誰のために働いてるのか

まとめますね。

僕がミスを指摘されて喜ぶのは、優しい店長になりたいからじゃないんです。

誰のために仕事してるのか、って話なんですよ。

スタッフは、店長のために働いてるんじゃない。お客さんのために働いてる。 僕も同じです。

だったら、店長のミスを指摘するのは、失礼でもなんでもない。お客さんを守る、当たり前の仕事なんですよ。

指摘しにくい店って、みんなが店長の顔色のために働いちゃってる店なんです。それ、履き違えてますよね。俺も、スタッフも、そこは間違えないでおこうって思ってます。

——チャーシュー4枚のまま出したら、悲しむのはお客さんです。

「店長、これ間違えてますよ」は、僕への攻撃じゃない。お客さんへの、いい仕事です。

だから今日も、言われたら大げさに言います。

「ありがとう!……え、なんで気づいたの?」