「今から三つ、伝えたいことがある」——遅刻したスタッフへの、フィードバックの伝え方

厨房で、丼を持って足早に動くスタッフの後ろ姿

今日は、あるスタッフが遅刻してきました。

でもね、その子、来てすぐ、みんなに謝ってたんですよ。僕にも、他のスタッフにも。

だからその時点では、**「まあ、いいかな」**と思ったんです。遅刻そのものについては、それで終わり。

ただ——別に、伝えたいことがあった。 だから仕事終わりに、時間をもらいました。

そして、こう切り出しました。

「今から三つ、伝えたいことがある」

一つ目:その時間、誰が動いてると思う?

まず、こう聞きました。

「忙しい合間に、あなたは後ろで手を組んで、ボーッとしてる時間があるよね。——その時間、他のスタッフが代わりに動いてくれてるって、気づいてる?

これ、本人はたぶん、悪気がないんですよ。「自分の手は空いてる」と思ってるだけ。

でも、店って全体で動いてるんです。誰かが止まってる分は、必ず誰かが引き受けてる。 その「誰か」は、文句も言わずに動いてる。だから余計に、見えなくなる。

まずは、そこに気づいてほしかった。

二つ目:あなたは、いつも同じ速さで歩いてる

これが、今日いちばん伝えたかったことです。

あなたは、どんなに忙しくても、マイペースなんだよ。

ラーメンってね、盛り付けて運ぶまでの数秒が、勝負なんです。できるだけ短縮して、できるだけ早く持っていかなきゃいけない。

でも、あなたは違う。丼にスープを張って、麺が入った状態でも、ゆっくり歩いてテーブルに到着する。

他のスタッフは、麺が入ったら、ささっと走ってくるんですよ。盛り付けて、運ぶ。あなたみたいに、のんびり歩いてない。

でも——毎回走ってるわけじゃないんです

ここが大事なところなので、その子にもちゃんと説明しました。

他のスタッフだって、毎回走ってるわけじゃないんですよ。

ラーメンを3杯作るってときは、そんなに走らない。落ち着いて作ってる。

じゃあ「3杯なら歩く、8杯なら走る」なのか?——違うんです。

3杯でも、走るときはある。たとえば、**「この3杯を早く出して、次のお客さんを案内しなきゃいけない」**ってとき。そういうときは、ささっと動く。

つまり、何杯かじゃない。

その瞬間の"温度感"を、読んでるんですよ。

湯気の立つ丼を両手で持ち、素早く運ぶ手元

「力の入れどころ」が分かるかどうか

他のスタッフたちは、力の入れどころと、温度感を、よく理解してるんです。

ここは急がなきゃいけない。ここは落ち着いていい。——それを、その場その場で判断してる。だから緩急がある。

でも、あなたは常に一定のスピードなんですよ。しかも、ゆっくりのペースで。

……で、僕はこう言いました。

「一定のスピードで働くのは、入ったばかりの人がやることだよ。」

新人が一定なのは、当たり前なんです。まだ状況が読めないから。何が急ぎで何がそうでないか、分からない。だから全部同じ速さになる。

でも、あなたはもう2ヶ月以上やってる。 だから、それはもう、あなたがやるべき仕事じゃないんだよ、と。

三つ目:でも、あなたが最初にしたことは、良かった

そして、三つ目です。

「遅刻して、まず最初にあなたがしたことは、すぐに謝ったことだよね。僕以外の、他のスタッフにもちゃんと謝ってた。それは、いいことだ。

これ、本当にそう思ってるんです。

だって、あなたがいなかった時間、他のスタッフがその分を引き受けてくれてたわけですよ。そこにちゃんと頭を下げられるかどうかは、大きい。

だから僕は、遅刻については、それ以上言うのをやめました。

そして最後に、こう締めました。

「遅刻はしたけど、その後のアフターフォローは、良かったよ。」

なんで、この順番なのか

三つの順番、実は考えてます。

厳しいこと2つ → 良かったこと1つ。 この順番です。

逆にすると、どうなるか。褒めてから厳しいことを言うと、褒め言葉が「前フリ」に聞こえちゃうんですよ。「あー、これ言うために褒めたんだな」って。せっかくの評価が、無効になる。

でも、厳しいことを先に言って、最後に良かったところで終わると——帰り道に残るのが、そっちになる。

前に「その日の終わりは、いいことで締める」って書きました。あれと同じです。言う順番だけで、同じ内容が、まったく違って届くんですよ。

遅刻と、働き方は、別の話です

もうひとつ、自分の中で気をつけたことがあります。

遅刻を口実にして、日頃の不満をぶつけない。

今日、僕が呼び出した本当の理由は、遅刻じゃないんです。遅刻は、謝罪でもう決着してた。呼んだのは、二つ目の「一定のスピード」の話をしたかったからなんですよ。

これ、ごっちゃにすると最悪です。「遅刻したついでに、あれもこれも言われた」ってなったら、相手は**「怒られた」しか残らない。** 中身が入っていかない。

だから最初に「今から三つ、伝えたいことがある」と宣言しました。これから何個の話をするのか、先に言う。 そうすると、相手も身構えずに聞けるんですよね。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

自分へのツッコミも書いておきます。

「ボーッとしてる、って店主の主観ですよね?本人は休憩のつもりかも」

——そのとおりです。本人には、悪気はまったくないと思います。

でも、だからこそ言葉にして伝えたんですよ。悪気がないってことは、言われなきゃ一生気づかないってことなので。責めたわけじゃなくて、見えてない景色を渡したつもりです。

「厨房で走るって、危なくないですか?」

これは、まっとうな指摘です。実際、熱い汁物を持って走るのは危ない。

だから僕が言ってるのは「常に走れ」じゃないんです。むしろ逆で、**「いつ急いで、いつ落ち着くかを判断しろ」**という話。判断できる人は、危ないときには走りません。緩急がある人のほうが、実は安全なんですよ。

「2ヶ月で、そこまで求めるのは早くないですか?」

うーん、正直、迷うところではあります。

ただ、2ヶ月って、けっこう長いんですよ。 うちみたいな小さい店だと、その間に何百杯も出してる。もし2ヶ月経っても新人と同じ動きでいいなら、その子はいつまでも新人のままです。

期待値を上げるのも、育てることの一部だと思ってます。ただ、これが早すぎないかどうかは、僕もずっと自問してます。

閉店後の静かな店内。カウンターに椅子が並んでいる

一定である、ということ

最後に。

今日いちばん、自分でも「なるほどな」と思ったのは、これでした。

一定のスピードで働くって、実は「何も判断してない」ってことなんですよ。

速い人がえらいんじゃない。その場その場で、速さを変えられる人がすごいんです。それは、状況を見てる証拠だから。

うちの他のスタッフたちは、それができてる。だから、余計に目立つんですよね。

——あの子にも、いつかそれが分かる日が来たらいいなと思ってます。今日の話が、その一歩になってたらいいんですけど。