夜8時に、電話しました——「辞めてもらおうか」と思っていた新人が、泣いた話

夜、閉店後のカウンターで電話をしている店主の後ろ姿

今日は、頭を抱えた日の話です。

明らかに、やる気がなかった

新人スタッフがひとりいるんですけどね。今日は、明らかにやる気がなかったんですよ。

まず、声が小さい。「いらっしゃいませ」も「ありがとうございました」も、届いてない。行動も遅い。

さあ、どうするか。

僕は、その場では言いませんでした

正直に言うと、言いたい気持ちはありました。でも、その場では言わなかったんです。ちょっと様子を見ることにしました。

で、営業が終わってから、こう伝えました。

「営業中は忙しくて話せなかったから、夜8時に電話していい?大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です」

——この「大丈夫ですか?」を挟むの、僕は大事だと思ってるんですよ。いきなりかけない。相手にも心の準備をしてもらう。LINEじゃなくて電話にしたのも、文字だと冷たくなるからです。

電話する前、僕が考えていたこと

ここは、正直に書きます。

電話をかける前、僕はこう思ってました。

「やる気がないんだったら、もう辞めてもらおうかな」

そういう話をするつもりで、電話に向かってたんです。

でも——直前で、思い直しました。

まずは、相手の話を聞かないとダメだ。こっちが一方的に言っても、何も解決しない。

だから最初に、こう聞きました。「今、やる気ってどれくらいある?」って。

返ってきた答え

「やる気は、あります」

——え、と思いました。じゃあ、なんで今日はあんな感じだったの?と聞いたら、そこから、話が出てきたんです。

指導役につけていた人が、細かすぎる。ずっと監視されているようで、すごくやりにくい。

そして、話しているうちに——その子、泣き始めちゃったんですよ。

業務用食器洗浄機のラック。突起の隙間にコップが差し込まれている

出てきた具体例が、けっこう刺さった

聞いていくと、具体的な話が出てきました。

うちの洗浄機って、ラックが2種類あるんです。コップ用のフラットなやつと、丼を立てる突起が付いたやつ

指導役の人は「コップはコップのラック、丼は丼のラックに入れてください」と、きっちり言う。……正しいんですよ。ルールとしては、まったく正しい。

でも、その子が言うには——「他の人は、突起のほうの隙間にコップを入れてます」

……これ、僕、知ってるんです。実は僕も、2〜3個くらいなら「まあ、いいか」って見てました。

チャーシュー丼の話も出ました。焼き方、盛り付け、並べ方、ご飯を入れるタイミング。全部いちいち見られる。「このタイミングじゃなきゃダメ」って言われるけど、他のスタッフは違うタイミングでやってますよね?——って。

これ、返す言葉に困りました。だって、そのとおりだから。

僕が伝えたこと

もちろん、伝えるべきことは伝えました。

「テンションが下がったのは、分かった。でも、それでお客さんに、やる気のない対応をするのは違うよね」

ここは譲れません。お客さんは、うちの内部事情なんて関係ないので。

でも、その子の言い分も、間違ってなかった。「守れ」と言われたルールを、他の人は守っていない。 それを自分だけ細かく詰められたら、そりゃ心が折れます。理不尽ですよ。

今日いちばん思ったこと

で、電話を切ってから、思ったことがあります。

人の管理が、経営でいちばん難しい。

経営って、いろいろやることがあります。売上を上げるのも大事。経費を見直すのも大事。原価率とか、客単価とか、このブログでもさんざん書いてきました。

でもね。数字は、まだ何とかなるんですよ。 計算すれば見えるから。

人は、違う。

そこで働く人と人のつながり。誰が誰にどう注意するか。その言い方で、相手がどう感じるか。——ここを管理するのが、本当に、本当に難しい。

今日はもう、頭を抱えましたよ。大変だな、これは、って。

で、これから何をするか

まだ答えは出てません。でも、今日の話から見えたことが、ひとつあります。

僕が向き合うべきなのは、泣いた新人じゃなくて、僕の店のルールなんですよ。

だって、あの子の言い分の核心は「細かく言われた」じゃなくて、**「自分だけ細かく言われた」**なんですから。

ルールが全員に適用されてないと、指導は「指導」じゃなくて「攻撃」に見えるんです。指導役の人は、正しいことを言ってる。それなのに嫌われる。それはたぶん、僕がルールを曖昧にしてきたツケなんですよね。

前に、貢献してくれる子に厳しく言った話を書いたとき、「表のルールは、全員に公平に」って書きました。あれ、自分で書いておいて、できてなかったってことです。

コップのラック。丼のラック。「まあ、2〜3個ならいいか」——その僕の「まあ、いいか」が、今日、あの子を泣かせた一因なんだと思います。

……と書いたけど、そんな単純じゃないんです

ルールを整えればいい。——そう書いたばかりですけど、今日いちばん難しいと思ったのは、実はその先なんですよ。

ルールって、完全に踏み越えたら、アウトじゃないですか。それは分かるんです。誰が見ても分かる。

問題は、境目なんです。

片足はルールの外に出てるけど、もう片方の足は、ルールの中にある。半歩だけ、はみ出してる。——あの、なんとも言えない微妙なところ。

コップを2〜3個、丼のラックに入れる。まさにそれです。完全なルール違反かというと、そこまでじゃない。でも、正しいかというと、正しくない。

じゃあ、境目まで全部ルールにすればいいのか

これがね、できないんですよ。

「コップは2個までなら丼ラックに入れてよい。ただし混雑時に限る」——こんなルールを、全部の作業で作ったら、どうなるか。

店が、めちゃくちゃ堅苦しくなる。

マニュアルが分厚くなって、誰も覚えられなくて、みんな萎縮する。そんな店で働きたいですか?僕は嫌です。うちを、そういう店にはしたくない。

だから、境目は——その人の判断に委ねるしかない。

でも、委ねた瞬間に、今日の問題が起きる

……もう、お分かりですよね。

判断に委ねると、人によって基準が変わるんですよ。

僕は「2〜3個なら、まあいいか」。指導役の人は「ダメ」。——どっちも、間違ってない。 でも、その差が、新人には理不尽に見える。

ルールを細かくすれば、店が窮屈になる。 判断に委ねれば、人によってブレる。

——これ、どっちを選んでも問題が出るんです。

今日、僕が本当に頭を抱えたのは、ここでした。

深夜、照明を落とした店内のカウンターに一人で座る男性の後ろ姿

今日は、答えが出ませんでした

いつもなら、記事の最後に「だから僕はこうしてます」って書くんですけどね。

今日は、書けません。答えが出てないから。

売上を上げるのと、経費を見直すのと、人を管理するの。どれがいちばん難しいか。——僕は今日、はっきりしました。人です。 圧倒的に、人。

数字には、正解があるんですよ。原価率31%が良いか悪いか、計算すれば分かる。値上げの効果も、掛け算で出る。

でも、人には、正解がない。

しかも、店主から見えてる景色と、現場の子から見えてる景色は、まったく違う。今日それを、思い知りました。

——同じように頭を抱えてる経営者の方、たぶん、いますよね。今日は結論のない記事ですけど、それでいいと思って書きました。

一緒に、悩みましょう。

この話は、歌にもなっています

夜8時に、新人に電話した話

YouTubeで聴く:「夜8時の電話」— 現場のうた