店主として続ける

ラーメン屋の一日の流れ——17時間労働の店主が変えた仕込みの順番

早朝の厨房。寸胴鍋の下のコンロに火をつける手元

朝から晩まで店にいて、帰るのは夜中。——開業したての店主って、だいたいそうなりませんか。僕は、1日17時間とか店にいました。

今日は、そこから早く帰れるようになるまでに変えた「仕込みの順番」の話です。ラーメン屋の一日の流れも、そのまま書きます。

「毎日どんな感じなんですか?」って、たまに聞かれるんですよ。で、答えようとすると——オープン当初と今とで、全然違うんですよね。そこがいちばん面白いと思うので、両方書きます。

オープン当初:朝7時に入って、帰りは深夜1時

最初のころ、僕の一日はこうでした。

朝7時に出勤。帰るのは、夜中の12時とか1時。

……ひどいでしょ(笑)。1日17時間とか18時間、店にいたことになります。

なんでそんなことになってたか。答えは単純で、どういう手順でやればいいのか、分かってなかったからです。

十年間、人の店で働いてきましたけどね。それは「自分の店を、自分の手順で回す」のとは、まったく別物なんですよ。何をどの順番でやるか。どこで待ち時間が生まれるか。何と何を同時に進められるか。——効率という考え方そのものが、僕の中になかったんです。

そして、オープン当初は改善なんてできない

もうひとつ、大事なことがあって。

お店って、オープンすると、お祝いのお花がずらっと並ぶじゃないですか。あれが出てると、お客さんもドカッと来てくれるんですよ。開店景気ってやつですね。ありがたい話です。

でもね。その真っ最中に、効率がどうとか、改善がどうとか、できないんですよ。

目の前の一杯を出すので、精一杯なんです。考える余裕がない。だから、非効率なやり方のまま、ひたすら体力で押し切る。それで朝7時から深夜1時になる。

これ、けっこう根深いジレンマだと思ってます。忙しいから改善できない。でも改善しないと、ずっと忙しいまま。 うちに限らず、たいていの店がここでハマるんじゃないでしょうか。

ラーメン屋の仕込みは、何時から始まるのか

先に答えを書いちゃいますね。

うちの場合、店に入るのは開店の3時間くらい前です。

いちばん最初にやるのは、スープに火をつけること。スープは、お客さんに出せるようになるまで最低でも2時間かかるんですよ。だから、まずここを動かす。で、スープを炊いている間に、メンマとチャーシュー、ネギを仕込んでいく。残りの1時間は、そういう「スープを待つ間の仕事」で埋まっていきます。

つまり、「仕込みは何時から?」の答えは、スープにどれだけ時間がかかるかで決まるんです。ほかの店でも、たぶん考え方は同じだと思います。

今の一日

で、今はどうなったか。

朝いちばんに店に入って、夜は閉店したら、ほぼそのまま帰れます。

一日の流れは、こんな感じです。

  • 朝いちばん、店に入って、まずスープに火をつける
  • そのまますぐ、メンマとチャーシューを仕込む
  • その間に、ネギを切る
  • 12時ごろから、昼のピーク
  • 昼のピークが落ち着く → ここで夜の仕込みを始める
  • 夜の営業
  • 夜の空いた時間に、本来なら営業後にやる仕込みを、先にやっておく
  • 閉店後は片付けだけ。だから、すぐ帰れる

朝いちばんに火をつけるのは、スープに時間がかかるからですね。その待ち時間に、メンマとチャーシューを進める。さらにその手が空く瞬間に、ネギを切る。——待ち時間に、別のことを差し込んでいく。この感覚が、最初は全然なかったんですよ。

いちばん効いた改善は、これでした

で、いちばん大きかった改善を書きます。

以前は、**昼と夜のあいだの数時間が「休憩時間」**だったんです。昼が終わって、夜が始まるまでの、あの空白の時間ですね。そこで、夜の仕込みをやってました。

それを、こう変えたんです。

昼のピークが落ち着いたら、その瞬間からもう始める。

休憩時間まで待たない。「休憩時間になったらやろう」じゃなくて、「手が空いた瞬間にやる」。これだけで、かなり改善されました。

そしてもうひとつ。本来なら営業終了後にやる仕込みを、夜の暇な時間に前倒しするようにしました。

何を前倒ししたかというと、ひとつはスープを作る作業。もうひとつは、チャーシュー用の肉の下ごしらえです。

肉って、豚の腕が一本まるごと、塊で届くんですよ。そこから筋を取って、リンパみたいな、いらないところを取り除いていく。地味だけど、けっこう時間のかかる作業なんです。これを閉店後じゃなくて、夜のお客さんが途切れた時間に済ませておく。

これが効いたんですよ。だって、閉店後にやることが片付けだけになるんですから。片付けたら、そのまま帰れる。深夜1時まで残っていたのが、閉店してすぐ帰れるようになったのは、ここが大きいです。

要するに、こういうことなんだと思う

まとめると、僕がやった改善って、たぶんこの一行なんですよ。

「暇な時間」を、「休憩」じゃなくて「前倒しの時間」に変えた。

以前の僕は、暇な時間を「やっと空いた」って受け取ってたんです。で、決められた時間になったら、決められたことを始める。

今は違います。手が空いた瞬間に、あとでやることを、先に持ってくる。すると、あとの時間が空く。当たり前のことなんですけど、これに気づくまで、僕は何年もかかりました。

あ、それと。スープの作り方も、根本から見直しました。中身は企業秘密ということで書きませんけど(笑)——考え方だけ言うと、「いつ、どれだけ作るか」を組み替えたんです。味を落とさずに、時間の使い方だけを変える。ここが変わったのが、いちばん大きかったかもしれません。

ちなみに、このへんの「仕組みで店を回す」って考え方で、僕が実際に読んだ本です。気になった方はどうぞ。

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まな板の上で、青ネギを刻む手元

ただし——前倒ししちゃいけないものが、ある

ここ、いちばん大事なので、はっきり書いておきます。

なんでもかんでも前倒しにすると、新鮮さが失われるんですよ。

たとえば、ネギ。前日に切っちゃえば、いちばんラクです。 朝の手間がまるっと消える。でも、やりません。当日の朝に切るから、あの香りと食感が出せるんです。

メンマもそう。前日から仕込んでおけば、本当に、すごくラクなんですよ。でも、当日の朝に仕込むことで、香りが少しでもいい状態でお出しできる。

だから僕は、何を前倒しして、何を前倒ししちゃいけないか——ここの線引きを、いつも意識してます。

線の引き方は、シンプルです。

前倒ししていいのは、「時間の使い方」。前倒ししちゃいけないのは、「味に直結すること」。

効率化っていうのは、全部でラクをすることじゃないんですよ。ラクをしていい場所と、絶対にラクしちゃいけない場所を、分けること。ここを見失うと、気づいたときには、味が落ちてます。しかも自分では気づきにくい。じわじわ落ちるので。

時間は削っていい。でも、お客さんの満足度に直結するところは、削っちゃいけない。 ここだけは、譲れないところです。

営業を終え、片付いた静かな店内。常夜灯だけが灯っている

空いた時間で、何をしてるか

さて。朝7時〜深夜1時だった毎日から、ざっくり、1日5時間くらい浮いた計算になります。

その時間で、僕が何をしてるか。

新しいことを、勉強してます。

AIを使って、いろんなものを作れるようになりました。うちの店のシフトを自動で作る仕組みとか、売上管理表を自動化する仕組みとか。以前なら「そんなの手でやるしかないでしょ」と思ってたことが、けっこう自動になりました。(AIとの二人三脚の話はこちら)

そして——このブログです。

空いた時間の多くは、ここに捧げてます。今あなたが読んでるこの文章も、その5時間の中で書いてます。

だからね、思うんですよ。効率化って、ラクをするためだけのものじゃないんだなって。

削った時間で何をするか。そこが本番なんです。僕の場合、それが「新しいことを勉強する時間」になった。時間を作らなかったら、このブログも存在してなかったわけです。

朝7時から深夜1時まで働いてた、開業したばかりの僕に、これを教えてあげたいですね。

ちなみに、長い時間を店で過ごし続けた先に何があるかは、店主が倒れたら店はどうなるかに書きました。時間を削るのは、店主の体を守るためでもあるんですよね。